「お通じが出ない」は病気? 慢性便秘症の定義をおさらい
朝晩の冷え込みとともに、外出や運動が減り、冷たい水をあまり飲まなくなる季節。「なんだかお通じが出にくい」「出てもすっきりしない」——そんな悩みが増える時期でもあります。
でも、そもそも「便秘」と「慢性便秘症」って何が違うのでしょう? 日本消化管学会の『便通異常症診療ガイドライン2023—慢性便秘症』によると、便秘とは次のような状態を指します。
- 便が大腸にとどまり、コロコロした硬い便になる・回数が減る
- 強くいきまないと出ない、残便感がある、肛門がふさがった感じがする
そのうえで、慢性便秘症は「慢性的に続く便秘のために、日常生活や体にさまざまな支障をきたす状態」と定義されています。ポイントは、便が硬い・回数が少ないだけで生活に影響がなければ、便秘「症」ではないという点。悩みの深さや生活への影響が、診断の分かれ目になります。
また症状のタイプは「排便回数減少型(回数が少ない)」と「排便困難型(出しにくい)」に分けて考えます。期間の目安としては、6か月以上前から症状があり、直近3か月続いているケースが慢性と見なされますが、実際の診療では医師が個別に判断します。
便秘の原因は腸だけじゃない——薬・病気との関係
便秘の原因として見落としがちなのが、薬の影響と別の病気です。
ガイドラインでは、次の薬が高頻度に便秘を引き起こすとされています。
- 抗コリン薬(花粉症や過活動膀胱などに使われる薬の一部)
- 向精神薬(抗うつ薬・睡眠薬など)
- 医療用麻薬(オピオイド)(がんの痛みなどに使う強い鎮痛薬)
また、糖尿病や甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが少なくなる病気で、代謝が落ちて便秘になりやすい)など、全身の病気が原因になることもあります。「なんか最近便秘がちだな」と思ったら、薬の見直しや内科的な検査のきっかけにもなります。
冬に便秘が増える? 水分・運動との関係を科学的に整理
「冬は水を飲まないから便秘になる」——よく耳にする話ですが、ガイドラインの見解は少し慎重です。
運動量について
身体活動量が低いほど慢性便秘症の発症率が有意に高くなるとされています。冬に運動量が落ちるのは、便秘リスクの観点からも気にしたいポイントです。
水分摂取について
食物繊維を1日25g十分にとったうえで、水分を多めに摂った人(平均2.1L)は、普段どおりの人(平均1.1L)より排便回数が有意に増えた、という試験があります。一方で、便秘の人とそうでない人の水分摂取量を比べた研究では差がなく、水分摂取単独での効果は現時点では根拠が不十分とまとめられています。
つまり、「水をたくさん飲めば便秘が治る」とは言い切れません。ただし、心臓や腎臓の病気で水分量を指示されている方は、かならずその指示を優先してください。
今日からできる! 食事・運動・排便習慣の工夫
ガイドラインは、生活習慣の改善が慢性便秘症に有効と明記しています。取り入れやすいものからチェックしてみましょう。
食事の工夫
- 食物繊維:不足している人に有効。野菜・豆類・海藻などを意識して増やしてみましょう。
- キウイフルーツ・プルーン・サイリウム(オオバコ由来の食物繊維):慢性便秘症の人を対象にした試験で、どれも同程度に排便回数を増やしたと報告されています。
- ヨーグルトなど乳酸菌食品・米や豆類の食物繊維:日本人の慢性便秘症の人に有効という報告があります。
運動の工夫
特に有酸素運動(ウォーキング、軽いジョギングなど)で便秘症状が改善するとした解析があります。ただし研究の質にばらつきがあり、今後さらなる検討が必要とされています。とはいえ、運動が体に悪いわけではないので、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけることは十分おすすめできます。
おなかのマッサージ
1日15分・週5回の腹壁マッサージ(おなかの上から手で押す・さする)が症状の改善に有効だったという試験が紹介されています。おへそのまわりを時計回りにやさしくさするのが基本です。
トイレのタイミング
大腸には「起床後反応」(起きた直後に腸が動く)と「食事誘発胃結腸反応」(食後に腸が大きく動く)という働きがあります。朝起きたあと・食後に、余裕をもってトイレに座る時間を確保するのが、排便リズムを整えるうえで理にかなっています。
便秘薬の種類と上手な使い方
生活の工夫だけでは不十分なとき、薬を使うことも選択肢のひとつです。ガイドラインに挙げられている主な種類を整理します。
浸透圧性下剤(便を柔らかくするタイプ)
腸の中に水分を引き込んで便を柔らかくし、排便回数を増やします。マグネシウム製剤(塩類下剤)、糖類下剤、ポリエチレングリコール製剤などがあります。ガイドラインでは投与を強く推奨(推奨の強さ「強」・エビデンスレベルA)。ただしマグネシウム製剤は、腎臓の機能が低下している人では血中のマグネシウムが上がりすぎることがあるため、定期的な血液検査が推奨されています。
膨張性下剤(便の量を整えるタイプ)
腸内で水分を含んでふくらみ、便の形と量を整えます。有効とされています。
粘膜上皮機能変容薬・胆汁酸トランスポーター阻害薬
腸への水分分泌を促したり、腸の動きを活発にしたりする比較的新しい薬です。どちらもガイドラインで投与が強く推奨(強・A)されています。
刺激性下剤(腸を動かすタイプ)
大腸の動きを直接強める薬です。即効性がある一方、使い続けると効きにくくなる(耐性)・習慣性の問題があるため、必要なときだけ・できるだけ短期間の使用が基本とされています。
💡 市販の便秘薬を長期間使い続けている方や、腎臓に持病がある方は、一度医療機関に相談することをおすすめします。
これは要注意! 大腸がんを疑う「警告サイン」
便秘の陰に、大腸がんなどの病気が隠れている場合があります。ガイドラインが示す警告症状・徴候は次のとおりです。
- 便通が急に変わった(急な排便習慣の変化)
- 血便
- 思い当たる理由なく6か月以内に3kg以上の体重減少
- 発熱・関節痛
- おなかのしこり、腹水(おなかに水がたまる)、肛門の診察での異常など
また、以下は「危険因子」とされています。
- 50歳以上になってから始まった便秘
- 大腸の病気(大腸がん・炎症性腸疾患など)の既往がある
- 家族に大腸の病気の人がいる
これらの警告症状・危険因子・検査での異常のうちいずれか一つでもあれば、大腸内視鏡検査などの精密検査が必要とされています。
国立がん研究センターの情報によると、大腸がんは早い段階では自覚症状がほとんどありません。血便は痔などの良性の病気でも起きますが、自己判断せず早めに受診することが大切です。
なお、大腸がん検診(便潜血検査)は40歳から年1回受けることが推奨されています。ただし、血便・腹痛・便の変化などの症状がある場合は、検診を待たず直接医療機関を受診してください。
こんなときは受診のサイン
以下に当てはまる場合は、内科や消化器内科への受診を検討しましょう。
- 急な便通の変化、血便、原因不明の体重減少、発熱など警告症状がある
- 50歳以上で便秘が新たに始まった・大腸疾患の既往や家族歴がある
- 便秘のせいで仕事・睡眠など日常生活に支障が出ている
- 市販の便秘薬が手放せない・だんだん効かなくなってきた
- 新しい薬を飲み始めてから便秘になった
- 大腸がん検診で「要精密検査」と判定された(必ず精密検査を受けましょう)
⚠️ 便が全く出なくなり、激しい腹痛や嘔吐がある場合は、腸閉塞(腸がふさがる状態)の可能性があります。すぐに医療機関を受診してください。
次の症状があるときは、迷わず救急車(119番)を呼んでください(厚生労働省「上手な医療のかかり方.jp」より)。
- 突然の激しい腹痛
- 激しい腹痛が続く
- 血を吐く
- 便に血が混ざる、または真っ黒い便が出る
まとめ
- 「慢性便秘症」は、便秘が続いて日常生活に支障をきたす状態。単に便が硬い・少ないだけでは診断されない。
- 冬場の運動量低下は便秘リスクに関係する。水分だけでは根拠が限られるが、食物繊維と合わせた摂取は有効な可能性がある。
- 食物繊維・キウイ・プルーン・ヨーグルト・有酸素運動・おなかのマッサージ・朝や食後のトイレタイムが生活の工夫として挙げられる。
- 薬には複数の種類があり、刺激性下剤の長期常用には注意が必要。
- 血便・急な体重減少・便通の急激な変化は大腸がんを疑う警告サイン。早めの受診を。
- 50歳以上での新規便秘・家族歴がある場合も、精密検査の対象となる。
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