B型インフルエンザは年明けに多い——でも「9月のワクチンが持たない」とは言い切れない
「B型インフルエンザって冬の後半に流行るんですよね? 9月に打ったワクチン、そのころまで効いてるんですか?」——インフルエンザの季節になると、こんな疑問を持つ方が増えてきます。
結論から言うと、B型の検出が年明け以降に偏っているのはデータ上そのとおりです。ただし、9月に打ったワクチンの効果がその時期まで残るかどうかは、現時点では科学的に決着がついていません。そして「決着がついていないから接種を遅らせよう」という判断も、専門家の間では一般的には取られていません。この3点を順番に整理していきます。
ここ数シーズン、B型の検出は年明けに偏っていた
国の感染症データによると、2025/26シーズンに検出されたB型インフルエンザウイルスの約95%が年明け以降に集中していました。A型(H3亜型)のピークが11月下旬ごろだったのに対し、B型のピークは翌年2月と、およそ3か月のズレがありました。同じ傾向は2023/24・2024/25シーズンにも見られています。
ただし、「B型がいつ来るか」と「B型がどれだけ来るか」は別の話です。シーズン全体でB型が占める割合は年によって2〜45%と大きく変動します。B型がほとんど見られない年もあれば、主役になる年もあります。
もう一つ知っておきたい変化があります。かつてB型には「山形系統」と「ビクトリア系統」の2種類がありましたが、山形系統は2020/21シーズン以降、国内での検出がありません。そのため日本のワクチンは2025/26シーズンから成分が3種類(3価)に変更されており、いま「B型」と言えばビクトリア系統のことを指します。今シーズン(2026/27)のワクチンに使われるB株も、前シーズンから切り替えられました。流行の主流が変わりつつあることへの対応です。
「2回打てばいい」という話ではない
「B型が心配なら、冬に入ってからもう一度打てばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。でも、論点はそこではありません。
インフルエンザワクチンの用法は、13歳以上は1回(または1〜4週間隔で2回)です。「数か月あけてもう1回」という打ち方は、ワクチンの添付文書(公式の使用説明書)には記載されていない方法で、成人へのシーズン中追加接種を推奨している公的機関も現時点では確認されていません。
つまり本当の問いは、「1回の接種で得られた効果が、どれだけの期間持続するか」です。
研究データが示すこと——B型への効果は「持つとも落ちるとも言えない」
2025年に発表された研究(健常な成人を対象)では、接種から5か月超の時点での分析結果として、次のようなデータが報告されています(数値が1より小さいほど、接種した人のほうが感染が少ないことを示します)。
- A型(H1N1):0.66(統計的に「差がある」と判断できる範囲)→ 防御が残っていると読める
- A型(H3N2):1.16(統計的に「差があるとも言えない」範囲)→ 判断できず
- B型:0.75(同じく「差があるとも言えない」範囲)→ 防御の方向は向いているが、断言できず
ここで注意が必要なのは、「統計的に有意ではなかった=効果がなかった」ではないということ。「この研究の範囲では、どちらとも決められなかった」というのが正確な読み方です。
研究者の間でも結論が割れている
B型への効果が時間とともに低下するかについては、複数の研究がありますが、結論が揃っていません。
低下を検出した報告(例):
- 2016年の欧州の報告では、B型への有効性は接種後44日で約71%だったが、シーズン末には判断できない水準まで低下したとされています。
- 2018年の報告では、B型の有効性が時間とともに低下する傾向が統計的に検出されました。
低下を検出しなかった報告(例):
- 英国の約21万件を対象にした2025年の解析では、A型では時間経過による効果の低下が認められた一方、B型では低下の証拠はなかったと報告されています。
- 米国の入院例を対象にした2025年の報告でも、B型の有効性はA型より高い水準で示されました。
- 49の研究をまとめた2026年のレビューでは、「効果の減衰はB型よりA型、特にH3N2でより一貫して観察された」とまとめられています。
つまり現時点では、「B型は早く落ちる」も「B型は落ちない」も言い切れないというのが正直なところです。
まだ分かっていないこと、正直に並べると
科学的に未解決な点を整理すると、こうなります。
- 観察された効果の低下が「本当に免疫の低下によるものか」「研究手法の偏りによるものか」が切り分けられていない
- 多くの研究が、今は国内で検出されなくなった山形系統が流行していた時期を含んでいる。現在主流のビクトリア系統に限った経過日数別のデータは少ない
- 日本国内での接種時期別のB型有効性データはなく、ここで紹介した数字はすべて海外の報告
- 「9月接種 vs 11月接種でB型への結果が変わるか」を直接比べた臨床試験は見当たらない
- 今シーズン、B型がどの程度流行するかも現時点では不明
「じゃあ、接種を遅らせた方がいいの?」という疑問に答える
一般的に、国内では季節性インフルエンザワクチンの接種は10月中旬〜12月上旬が目安とされています。「B型が年明けなら11月まで待った方が良いのでは?」という考え方には、一定の合理性があるように思えます。
しかし2020年に発表された米国のモデル研究では、接種を10月まで遅らせた場合、それ以前(8〜9月)に打っていた人の14%以上が接種を「打ち損ねる」ことになり、かえって入院が増えると試算されています。接種を遅らせることは、「遅らせた人が必ずあらためて打ちに来る」という前提が崩れると、差し引きでマイナスになりうるのです(これは米国のモデルであり、日本の数字ではありません)。
また米国の予防接種諮問委員会は「7〜8月の接種は効果の減衰を理由に勧めないが、9〜10月は理想的な時期」としており、カナダの勧告にも「早い秋の接種でシーズンの大半は防御が持続する」と記載されています。
さらに今シーズンは、すでにA型(H1N1)が流行し始めています。A型への備えを後ろへずらす理由として、まだ決着がついていないB型の懸念を持ち出すのは、バランスが取れていない考え方と言えるでしょう。
冬の後半に向けて、今からできること
ワクチンを打っても感染する可能性はゼロではありません。年明け以降に発熱があったとき、「打ったからインフルエンザじゃないはず」と自己判断せず、医療機関に相談することが大切です。
また、家族全員で接種することも有効な考え方のひとつです。海外の臨床試験では、子どもへの接種が、接種していない周囲の人への感染を間接的に減らしたと報告されています(家庭内でも同じ結果になるとは確認されていませんが、集団的な効果として知られています)。
そして忘れがちですが、手洗い・換気は冬の後半も継続することが基本です。ワクチンに加えて、日々の習慣が感染リスクを下げる土台になります。
まとめ
- B型インフルエンザの検出がここ数シーズン年明け以降に偏っていることは、データで確認されている
- ただし今シーズンB型がどれだけ来るかは不明。年によって大きく異なる
- 9月に打ったワクチンの効果が冬の後半まで残るかは、現時点で科学的に決着していない
- 「効果がない」とも「問題なく持続する」とも言い切れない——これが正直な現状
- 接種を遅らせることで「打ち損ねる人」が増えるリスクもあり、単純に「遅らせた方がいい」とは言えない
- 今シーズンはすでにA型が流行中。まだ打っていない方は早めの接種を検討しよう
- ワクチンに加えて、手洗い・換気などの基本的な対策を冬の後半まで続けることが大切
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