医療AIに「点数」がつくまで、10年以上かかる理由

「AIが医療を変える」という言葉をよく耳にします。でも実際に、AIが医療現場で保険点数として認められるまでには、想像をはるかに超えた時間と労力がかかっています。令和8年度の診療報酬改定をきっかけに、医療AIと制度のリアルな関係を整理してみました。

大腸内視鏡AIが「60点」を得るまでの道のり

国内第1号の大腸内視鏡AIは、2013年に研究がスタートしました。薬機法(医薬品や医療機器の安全性を審査する法律)の承認を得たのが2018年12月。そこからさらに、病変(がんやポリープなどの異常な部分)の検出を支援する改良版ソフトウェアの承認が2020年1月。そして保険点数として「60点」がついたのは、2024年6月のことです。

研究開始からトータルで、実に10年以上。大学と企業の共同研究チームが長い時間をかけて制度の中に道を開いた結果です。「AIだからすぐ使える」とはいかない、医療の世界の現実がここにあります。

令和8年度改定で新しく入った「生成AI加算」とは?

今年度の改定では、生成AIを使った文書作成補助を組織として導入した医療機関に対して、医師事務作業補助者(医師の書類作成などを手伝うスタッフ)の換算数を優遇する仕組みが加わりました。

  • 生成AI導入だけで:補助者1人を1.2人換算
  • 音声入力・RPA(定型作業の自動化)・患者向け説明動画のいずれかも組み合わせると:1.3人換算

要件としては、AIベンダーのガイドライン遵守・全スタッフへの研修・年1回程度の業務負担評価などが挙げられています。

ただし、これはあくまで「医師事務作業補助者を配置している医療機関」向けの制度。スタッフが充実した病院や中規模クリニック向けの設計です。

医療DX加算の新区分「電子的診療情報連携体制整備加算」も登場

同じ改定で、医療DX(デジタル化による医療変革)に関連した加算も再編されました。これまでの「医療情報取得加算」と「医療DX推進体制整備加算」が廃止され、新たに電子的診療情報連携体制整備加算が2026年6月からスタートしています。

区分は3段階(初診15点・9点・4点、再診2点・月1回)で、以下の条件を多く満たすほど高い区分になります:

  1. 電子処方箋を発行する体制があること
  2. 対象の電子カルテを持っていること
  3. 電子カルテ情報共有サービスなどで診療情報を共有・活用できること

さらに全区分共通で、算定する月の3か月前のレセプト(診療報酬請求書)件数のうち、マイナ保険証の利用率が30%以上であることも必要です。

この加算の内容をよく見ると、「AI」という言葉は一文字も登場しません。求められているのは、オンライン資格確認から電子処方箋・電子カルテ情報共有サービスまでのデジタルインフラの整備です。

「点数がつかない」領域でのAI活用——その実態と課題

診療報酬の対象外であっても、医療現場でAIを活用している場面は増えています。たとえば書類の下書き作成、定型案内文の生成、ブログや患者向け資料の原稿補助などです。こうした使い方は加算の要件とは無関係に、医師や医療スタッフの時間を生み出すために機能しています。

一方で、正直に向き合うべき課題もあります。

  • 確認は人間が行う:AIが生成した文章には、実際にはなかった実績や情報が混入することがあります(「ハルシネーション」と呼ばれる現象)。発信前に全文を人間が確認する習慣が不可欠です
  • 負担評価が後回しになりやすい:制度の要件では年1回程度の業務負担評価が求められていますが、点数の外で使っている場合はその義務がない分、自己管理が必要です
  • 代替できない部分がある:確認作業を担う人が一人しかいない場合、その人が止まればシステム全体が止まるという脆弱性があります

10年かけて道を開く人がいるから、気楽に使える人もいる

大腸内視鏡AIの60点は、大学と企業が10年以上をかけて研究・承認・制度化の道を切り開いた結果です。その積み重ねがあるからこそ、点数の外でAIツールを自由に試せる余地も生まれています。

医療AIを「すごい技術」として消費するだけでなく、その背景にある長い開発と制度化のプロセスを知っておくことは、賢い患者・市民として医療と付き合ううえで大切な視点ではないでしょうか。

まとめ

  • 医療AIが保険点数になるまでには、研究から10年以上かかることもある
  • 令和8年度改定では、生成AIを使った文書補助に加算が新設されたが、スタッフ配置のある医療機関向けの制度設計
  • 電子的診療情報連携体制整備加算は「AI」より「デジタルインフラ整備」が本質
  • 加算の対象外であっても、AIは医療者の時間創出に活用されている
  • AIが生成した医療文書は、必ず人間が確認することが大前提
  • 制度の外でAIを使うなら、自分自身で評価・管理する仕組みを持つことが重要

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