ぎっくり腰って何?——急に起こった「あの激痛」の正体
重い荷物を持ち上げた瞬間、体をひねったはずみに——腰に走る電撃のような激しい痛み。いわゆる「ぎっくり腰」は、朝起きた直後や何もしていないときに突然起こることもあります。
日本整形外科学会によると、「ぎっくり腰」は急に起こった強い腰の痛みを指す一般的な呼び名(通称)であって、正式な病名・診断名ではありません。痛みの原因はさまざまで、腰の関節や椎間板(背骨のクッション)への過剰な負荷による捻挫・損傷や、腰を支える筋肉・腱・靱帯などの軟らかい組織の傷みが多いと考えられています。
なお、腰痛は発症からの期間によって次のように分類されています。
- 急性腰痛:発症から4週間未満
- 亜急性腰痛:発症から4〜12週間
- 慢性腰痛:発症から3か月以上
腰痛は「症状の名前」であって「病気の名前」ではなく、背骨・筋肉・神経・内臓・血管、さらには心理的な要因まで、さまざまなものが原因になります。
「多くは自然に良くなる」——急性腰痛の経過
日本整形外科学会・日本腰痛学会の「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」によると、急性腰痛の自然な経過は自然に軽くなることが多く、おおむね良好とされています。
33の研究・計11,166人分のデータをまとめた分析では、急性腰痛の痛みのスコア(最大100点)は平均52点から最初の6週間で23点へと大きく下がり、その後もゆるやかに改善が続いていました。
ただし、全員がすっきり治るわけではありません。痛みが長引くほど(慢性化するほど)経過は良くなくなる傾向があり、「治らないのでは」という強い不安や、仕事・生活上のストレスなどの心理社会的な要因が腰痛を長引かせることも知られています。
「安静にしすぎない」ほうがいい——これが今の常識
ぎっくり腰になると「布団の中でじっとしているべき」と思いがちですが、ガイドラインは安静よりも活動性を維持するほうが有用としています。これは今の医学の共通認識です。
「活動性の維持」とは、痛みに無理のない範囲で、食事・洗顔・着替えなどふだんの生活の動きをできるだけ続けることです。ベッドで安静にし続けるよりも、
- 痛みが早く和らぐ
- 体の機能の回復が早い
- 仕事を休む期間が短くなる
という結果が研究で示されています。
日本整形外科学会も、腰痛で動かないでいると体力・筋力が落ち、気持ちも落ち込み、さらに腰痛が起きやすくなるという「悪循環」を指摘しています。
ただし、お尻から足にかけての痛みやしびれ(坐骨神経痛)を伴う場合は、安静・活動維持どちらが優れているかは明確ではなく、椎間板ヘルニアなど別の病気の可能性もあるため、医療機関で原因を確かめることが大切です。
家庭でできること・気をつけたいこと
やってみたいこと
- 痛みが許す範囲で、食事・身の回りのことなどふだんの動作を続ける
- 中腰姿勢など腰に負担がかかる動きを避ける
- 痛みが落ち着いてきたら、腰を支える筋肉を鍛える運動・体操を少しずつ取り入れる
薬・コルセットについて
痛み止め(解熱鎮痛薬)は痛みの軽減や機能の改善に有用とされていますが、市販薬を含め種類が多いため、薬剤師や医師に相談して選ぶのが安心です。コルセットについては、腰痛に対する直接的な予防効果はないとされています。温熱療法など一部の治療は有用とされているものもありますが、質の高い研究はまだ少なく、推奨できる治療法は限られています。
見逃してはいけない「危険なサイン」——腰痛に潜む怖い病気
ぎっくり腰の多くは自然に回復しますが、なかには重い病気が「腰の痛み」として現れていることがあります。ガイドラインが定める「危険信号(レッドフラッグ)」を覚えておきましょう。
こんな症状・状況があったら要注意
- 発症したときの年齢が20歳未満、または55歳を超えている
- 体を動かすかどうかに関係なく、じっとしていても痛む
- 胸の痛みを伴う
- がんの治療歴・ステロイド治療歴・HIV感染の既往がある
- 栄養が不良、または体重が減ってきている
- 広い範囲の神経症状(しびれ・脱力など)がある
- 背骨に変形がある
- 発熱がある
- 尿や便が出にくい、または漏れる(膀胱・直腸の障害)
- 足に力が入らない、まひがある
また、腰痛の原因が「腰の外」にあることも少なくありません。腹部大動脈瘤・解離性大動脈瘤などの血管の病気、尿管結石・腎盂腎炎などの腎臓・尿路の病気、子宮内膜症などの婦人科の病気、胆嚢炎・十二指腸潰瘍などの消化器の病気が、腰の痛みとして現れることがあります。「ぎっくり腰だろう」と思っても、動きとは無関係に痛む・胸や背中の痛みを伴う・熱があるときは自己判断で様子をみないでください。
受診の目安——いつ・どこに行けばいい?
🚨 すぐに119番(救急車)を呼ぶべき症状
- 胸や背中の突然の激痛、または痛む場所が移動する
- 急な息切れ・呼吸困難
- 突然のしびれ、または片腕・片足に急に力が入らなくなった
- 突然の激しい腹痛・激しい腹痛が続く
- 冷や汗を伴う強い吐き気
- 交通事故・転落・転倒など強い衝撃を受けた
- 意識がない、または様子がおかしい
救急車を呼ぶか迷ったときは、救急安心センター(#7119)に電話して相談できます。
⚠️ 様子をみずに、早めに医療機関を受診したいとき
- 安静にしていても痛みが軽くならない、またはしだいに悪化している
- 発熱がある
- 足がしびれる、力が入らない
- 尿や便が出にくい・漏れる
- がん治療歴がある、またはステロイドを継続使用している
- 転倒・打撲などのきっかけがあった
- 体重が減ってきている
- 20歳未満、または55歳を超えてから強い腰痛が出た
✅ しばらく様子をみてもよいとき
上記のような危険なサインがなく、少しずつ楽になっている場合は、痛みの範囲でふだんの生活を続けながら様子をみてください。ただし、4週間を過ぎても痛みが続く・繰り返す・生活や仕事に支障があるという場合は、整形外科や内科などに相談しましょう。
なお、神経症状を伴わない腰痛では、受診してすぐにレントゲン検査が必ず必要というわけではありません。検査の必要性は問診と診察をもとに医師が判断します。
まとめ
- 「ぎっくり腰」は急性腰痛の通称であり、正式な病名ではない。原因は捻挫・筋肉の損傷などが多い
- 急性腰痛の多くは自然に回復する経過をたどる
- 「安静にしすぎない」「痛みの範囲で動き続ける」のが今の医学の考え方
- じっとしていても痛む・発熱・足のまひ・尿便の異常などの危険なサインがあれば自己判断せず受診する
- 胸・背中の激痛や突然のまひは救急車を迷わず呼ぶ
- 4週間以上痛みが続く・繰り返す場合は医療機関で相談を
この記事に関連するおすすめ商品
腰痛予防ストレッチ・体幹トレーニング用ヨガマット
痛みが落ち着いたら、腰を支える体幹を鍛えるストレッチや体操を。自宅で続けやすい厚手タイプが人気。
