神経性やせ症と、家族療法(FBT)の重い現実
神経性やせ症は、極端な体重減少を引き起こし、心身に大きな影響を与える深刻な病気です。特に10代の若年層に多く見られ、その治療にはご家族の協力が不可欠とされています。中でも「家族療法(FBT:Family Based Treatment)」は、若年者の神経性やせ症において最も効果的な治療法の一つとして広く認識されています。
FBTでは、保護者の方がお子さんの食事を管理し、再栄養を積極的に進める役割を担います。これは、お子さんが病気の影響で食事を拒否したり、激しく抵抗したりする中で、栄養を取り戻すための非常に重要なステップです。しかし、この過程はご家族にとって精神的、肉体的に計り知れない負担を伴います。毎食時の激しい言い争いや、お子さんの苦しむ姿を見るのは、親として本当に心が痛む経験です。
「このままで本当に良いのだろうか?」「もっと他にできることはないか?」
診察のない夜間や休日、目の前のお子さんにどう食事を勧めればよいのか、途方に暮れることも少なくないでしょう。このような「支援の空白」とも言える時間帯に適切なサポートが得られないことで、治療を諦めてしまうご家族もいるのが現状です。
「支援の空白」を埋める、24時間寄り添うAIパートナー
岡山大学 学術研究院 医歯薬学域(医)医療情報化診療支援技術開発講座の長谷井嬢教授(整形外科)は、岡山大学病院小児心身医療科と連携し、このご家族の「困った!」に応えるべく、家族療法(FBT)の専門知識を学習したAIチャットボットを開発しました。このAIは、ご家族が最も支援を必要とする時に、いつでも、どこでもアクセスできる心強い存在となることを目指しています。
想像してみてください。お子さんが食事を拒否して泣き叫び、ご家族がどう対応すればいいか分からず途方に暮れている深夜。これまでは一人で抱え込むしかなかった状況で、このAIチャットボットに「今、どうすればいい?」と問いかけることができるのです。AIは、FBTの専門知識に基づき、その状況に応じた適切な声かけや対処法を即座に提案してくれるでしょう。これは、まさに「医療の空白」を埋める画期的な試みと言えます。

専門家も太鼓判!その「安全性と妥当性」
医療に関わるAIと聞くと、「本当に信頼できるの?」と不安に感じる方もいるかもしれません。しかし、この支援AIは、専門医による厳格なテストと評価を受けています。その結果、AIの回答の9割以上が「適切で安全」であると判定されました。これは、AIが単なる情報提供に留まらず、医療現場で求められる高い質と安全性を備えていることを示しています。ご家族は安心して、AIからのアドバイスを参考にできるでしょう。
単なる情報提供じゃない!感情に寄り添い、勇気づけるAI
長谷井教授は、開発にあたり、ご家族が単に情報を求めているだけでなく、感情的な支えも必要としていることを深く理解していました。だからこそ、このシステムには、日々治療に取り組むご家族の感情に寄り添い、勇気づける「エンパワメント」を行う独自のアルゴリズムが搭載されています。
長谷井嬢教授からのコメント:
神経性やせ症の治療において、保護者は『回復を支える最大の味方』ですが、同時にもっとも過酷な状況に置かれています。食卓での激しい葛藤に直面したとき、深夜や休日であっても、すぐに適切な声かけや対処法を提案してくれる存在があれば、家族にとって大きな支援になるのではないかと考え、小児心身医療科と連携して開発しました。
本システムは単に情報を与えるだけでなく、日々治療に取り組むご家族の感情に寄り添い、エンパワメント(勇気づけ)を行う独自のアルゴリズムを搭載しています。

この言葉からもわかるように、AIはご家族のつらい気持ちに寄り添い、「あなたは一人じゃない」「よく頑張っている」と、きっと心強く励ましてくれるでしょう。これは、治療の継続において非常に大きな力となるはずです。
未来へ向けて:臨床実装への期待
この支援AIは、将来的な臨床利用を目指しており、2026年2月からは段階的に患者さんのご家族による試用が予定されています。この試用期間を通じてシステムの精度がさらに高められ、より多くのご家族にとって、なくてはならない存在へと進化していくことでしょう。
長谷井教授は、「今後効果実証を行う予定で、診療に利用できるのはまだ先ですが、AIが医療の空白を埋めることで、より多くの子どもたちが家族とともに回復への道を歩めるよう、今後も臨床実装に向けた研究を加速させていきます」と語っています。これは、生成AIの医療応用推進に大きく貢献し、医療を補完するデジタル・トランスフォーメーション(DX)の象徴的なモデルとなることが期待されています。
研究を支える力
この重要な研究は、以下の財団およびプログラムの支援を受けて実施されました。
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公益財団法人三島海雲記念財団
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公益財団法人明治安田こころの健康財団
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公益財団法人橋本財団
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JSTスタートアップ・エコシステム共創プログラム(PSI2025_S2B71)
岡山大学の取り組みと関連情報
岡山大学は、今回の神経性やせ症支援AIの開発だけでなく、様々な分野で先進的な研究と社会貢献を行っています。SDGs(持続可能な開発目標)の推進にも力を入れており、地域と地球の未来を共創する「地域中核・特色ある研究大学」として、その役割を果たしています。

詳しい研究内容はこちら
- 神経性やせ症の家族療法(FBT)に特化した支援AIを開発-家庭での「支援の空白」を埋める新たな試み-
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r7/press20260130-2.pdf
関連リンク
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岡山大学メディア「OTD」(ウェブ)
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id1495.html -
岡山大学SDGsホームページ
https://sdgs.okayama-u.ac.jp/ -
岡山大学SDGs~地域社会の持続可能性を考える(YouTube)
https://youtu.be/Qdqjy4mw4ik -
岡山大学Image Movie (YouTube)
https://youtu.be/pKMHm4XJLtw -
岡山大学地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)
https://j-peaks.orsd.okayama-u.ac.jp/

おわりに:希望の光を胸に
神経性やせ症の治療は、長く、そして困難な道のりかもしれません。しかし、岡山大学が開発したこの支援AIは、ご家族の皆さんが一人で抱え込むことなく、必要な時にいつでも適切なサポートを受けられる未来を切り開きます。夜間の不安も、休日の疑問も、このAIがきっと寄り添い、解決のヒントを与えてくれるでしょう。
ご家族が心身ともに健康でいられることが、お子さんの回復への大きな力となります。この新しいAIが、多くのご家庭に希望の光をもたらし、お子さんたちが健康な体と心を取り戻すための一助となることを心から願っています。

このAIは、まだ開発途上にあり、今後も試用と改善が重ねられていく予定です。しかし、その根底には「苦しむご家族を支えたい」という強い思いがあります。焦らず、一歩一歩、お子さんと共に回復の道を歩んでいきましょう。このAIが、その道のりを少しでも楽に、そして希望に満ちたものにしてくれるはずです。
本件お問い合わせ先
岡山大学 学術研究院 医歯薬学域(医) 医療情報化診療支援技術開発講座 教授 長谷井 嬢
〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町2-5-1 岡山大学鹿田キャンパス
TEL:086-235-7273
岡山大学への各種お問い合わせは、以下のリンクもご参照ください。
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岡山大学病院 新医療研究開発センター
http://shin-iryo.hospital.okayama-u.ac.jp/ph_company/ -
岡山大学病院 研究推進課 産学官連携推進担当
http://shin-iryo.hospital.okayama-u.ac.jp/medical/ -
岡山大学研究・イノベーション共創機構 産学官連携本部
https://www.orsd.okayama-u.ac.jp/ -
岡山大学研究機器の共用の体制・整備等の強化促進に関するタスクフォース(略称:チーム共用)
https://corefacility-potal.fsp.okayama-u.ac.jp/ -
岡山大学研究・イノベーション共創機構 スタートアップ・ベンチャー創出本部
https://venture.okayama-u.ac.jp/

