「言いたいけど言えない…」患者さんの悩みに寄り添う「秘匿型ePROシステムASAHI」とは?

まず、「ePRO」という言葉、聞き慣れないかもしれませんね。「ePRO」とは「電子患者報告アウトカム」の略で、患者さんがご自身の症状や生活状況、治療の満足度などを、スマートフォンやパソコンを使って直接入力・報告できる電子システムのことです。

これまでも、患者さんの声を聞くためのシステムはありましたが、多くの場合、入力された情報は医療者やシステム運用者に見えてしまう可能性がありました。これでは、「誰かに見られるかも」という不安から、どうしても本音を伝えにくくなってしまいますよね。特に、炎症性腸疾患(IBD)のような慢性疾患では、症状に関する情報がプライバシーに深く関わるため、この問題はとても深刻でした。

そこで登場したのが、この「ASAHI」システムです。このシステムは、なんと「秘密計算」という最新の暗号技術とePROを組み合わせることで、あなたのプライバシーを徹底的に守りながら、大切な情報を収集できる世界初の仕組みなんです。

従来のPRO方式と秘匿型ePROの違い

従来のPRO方式では、患者さんのデータは医療者やシステム運用者が見られる形で保存・処理されていました。しかし、「ASAHI」システムが採用する新しい方式では、ePROで収集したデータを「秘密計算」という技術を使って暗号化したまま分散・断片化し、統計処理を行います。これにより、患者さん個人のデータを誰も参照することができないため、プライバシーが完全に保護されるんです。まるで、鍵のかかった箱にメッセージを入れて、その箱を誰にも開けさせずに、中身の合計だけを計算するようなイメージでしょうか。

この仕組みのおかげで、患者さんは「誰にも見られない」という安心感のもと、より率直な気持ちや状況を報告できるようになることが期待されています。

「ASAHI」で何が変わる?研究でわかった驚きの結果

2022年12月から2024年3月にかけて、千葉県内15施設のIBD患者さん322名を対象に、「ASAHI」の有効性を探る観察研究が行われました。その結果、このシステムが患者さんの医療体験を大きく変える可能性が明らかになったんです。

患者さんの「答えやすさ」がUP!

研究に参加した患者さんの約6割が、「ASAHI」システムでの回答について「答えやすかった」と回答しました。これは、プライバシーが守られているという安心感があったからこそ、患者さんが本音で答えられた証拠と言えるでしょう。

「本当は伝えたいこと」が見えてきた!便意切迫感と服薬状況のギャップ

この研究で特に重要だったのは、患者さんが医師に伝えたいと思っていても、実際には伝えられていなかった情報が明らかになったことです。

例えば、QOL(生活の質)に大きく影響する「便意切迫感」について。多くの患者さんが「医師に伝えるべき症状」と認識しているにもかかわらず、実際に医師に伝えていたのは7割弱にとどまっていました。また、治療の継続に欠かせない「服薬状況」についても、約3割の患者さんで、自己申告と実際の服薬状況に違いがあることがわかったのです。

本研究のポイント

医師の側から見ると、患者さんの便意切迫感については3割程度しか認識できておらず、服薬状況についても、正しく伝えられていない患者さんのうち7割は医師がその状況を認識できていませんでした。これは、患者さんと医師の間に「コミュニケーションの壁」が存在していたことを示しています。

この壁の背景には、「社会的望ましさバイアス」という心理的現象も関係していると言われています。これは、本音ではなく「社会的に正しいと思われる回答」をしてしまうことです。医療現場では、医師への遠慮が加わることで、この傾向が特に顕著になりやすいのです。

「ASAHI」システムは、秘密計算によってこの「診察室に生まれる遠慮の壁」を取り除き、これまで診療に活かされなかった患者さんの「本当の声」を、プライバシーを守りながら集めることを可能にしました。これにより、医師は患者さんの実態をより正確に把握し、個々に合った治療やサポートを提供できるようになるでしょう。

これはIBDだけじゃない!あらゆる慢性疾患の患者さんへ

今回の研究ではIBD患者さんを対象に行われましたが、この「秘匿型ePROシステムASAHI」の仕組みは、IBDだけでなく、あらゆる慢性疾患に応用できる可能性を秘めています。

例えば、糖尿病、高血圧、リウマチなど、継続的な治療と生活管理が必要な病気はたくさんありますよね。これらの病気でも、患者さんが日々の体調や服薬状況、生活習慣について本音を伝えられるようになれば、よりきめ細やかな医療が実現し、患者さんのQOL向上に大きく貢献できるはずです。

これからの医療はもっとあなたに寄り添う!研究者たちの熱い想い

この画期的なシステムの開発に携わった研究者たちは、今後の展望について熱いコメントを寄せています。

千葉大学医学部附属病院 消化器内科の太田佑樹 助教は、「医師にこそ言いにくいという『診察室に生まれる遠慮の壁』を少しだけ、秘密計算により初めて取り除くことができました。IBD以外の慢性疾患にも応用されることを期待します。今後、AIの活用や個別化医療への展開も見据え、患者さんからの『率直な声』を医療に活かす未来を目指します」と語っています。

また、NTTドコモビジネス株式会社 スマートヘルスケア推進室の櫻井陽一氏は、「今回、秘密計算とePROを組み合わせた研究が、Digital Health関連のトップジャーナルであるnpj Digital Medicineに掲載されたことで、世界に誇れるエビデンスとなったことを大変嬉しく思います。今後、こうした技術の組み合わせが医学・医療のみならず、あらゆる分野に届くことを期待します」と述べています。

これらのコメントからも、患者さんの声を大切にし、より良い医療を届けたいという強い想いが伝わってきますね。あなたの声が、これからの医療の未来を創っていく力になる。そう考えると、なんだかワクワクしませんか?

まとめ:あなたの声が医療の未来を創る

「秘匿型ePROシステムASAHI」は、患者さんのプライバシーを守りながら、本音の情報を医療現場に届け、より質の高い医療を実現するための大きな一歩です。

もしあなたが慢性疾患で悩んでいて、「なかなか自分の症状をうまく伝えられない」と感じているなら、この新しいシステムが、きっとあなたの力になってくれるはずです。あなたの「本当の声」が、これからの医療をより良く、よりパーソナルなものに変えていくでしょう。

この研究成果は、国際学術誌「Nature」の関連誌「npj Digital Medicine」に掲載されており、その信頼性も保証されています。

関連情報

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用語解説

  • 炎症性腸疾患(IBD):潰瘍性大腸炎やクローン病など、腸に炎症が繰り返し起こる慢性的な病気のことです。国内では30万人以上の患者さんがいると言われています。

  • 電子患者報告アウトカム(ePRO):患者さんがスマートフォンなどで、自分の症状や生活状況などを直接入力・報告するシステムです。

  • 秘密計算(SMPC):データを暗号化したまま、個人情報が特定できないように統計解析を行う、とても高度な暗号技術のことです。

  • 社会的望ましさバイアス:本当の気持ちではなく、「こう答えるべきだ」と思う社会的に正しいと思われる回答をしてしまう心理現象です。医療現場では、医師への遠慮から起こりやすいと言われています。