心不全との闘い、デジタルが新たな光を灯す

心不全という病気は、私たちの心臓が体の隅々まで血液を送るポンプとしての機能を果たせなくなる状態を指します。一度発症すると、息切れやむくみ、だるさといった症状に悩まされ、生活の質が大きく低下してしまうことがあります。さらに、症状が改善しても再発や重症化のリスクが常に伴うため、患者さんやそのご家族は大きな不安を抱えながら日々を過ごしています。特に日本では、超高齢社会の進展とともに心疾患患者さんが急増しており、医療現場でも持続可能なケアの提供が大きな課題となっています。

「もっと自分らしく、安心して自宅で過ごしたい」「家族の負担を少しでも減らしたい」——そんな心不全患者さんやご家族の切実な願いに応えるべく、デジタル技術を活用した新しい在宅ケアの仕組みが動き出しました。

阪急阪神HD、日立、大阪大学がタッグ!新しい在宅ケアサービスが誕生

この大きな一歩を踏み出したのは、阪急阪神ホールディングス株式会社(以下、阪急阪神HD)、株式会社日立製作所(以下、日立)、そして国立大学法人大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学講座の3者です。

彼らは、超高齢社会における医療費の増加や、医療・介護従事者の不足といった社会課題を背景に、デジタル技術を駆使した「在宅心不全自己管理支援サービス」の構築と社会実装に向けた共同検討をスタートさせました。

このサービスの目的は、心不全患者さんが自宅で安心して過ごせるよう、自己管理をサポートし、重症化や再入院を予防することにあります。患者さん一人ひとりの健康・医療・介護に関する情報を集約したPHRアプリ(Personal Health Recordアプリ)と、日々の生活を支えるリアルなサービスを組み合わせることで、患者さんのQOL(生活の質)向上と、医療・介護従事者の業務効率化を同時に実現しようとしています。

「いきいき羅針盤」で、もっと自分らしく病気と向き合う

この新しいサービスの中心となるのは、阪急阪神HDが運営するPHRアプリ「いきいき羅針盤」内で提供される心不全患者さん向けの自己管理アプリ「LVAD自己管理記録ノート」です。

患者 アプリを活用し毎日の自己管理・健康行動を継続

このアプリを使えば、日々のバイタルデータ(血圧、体重など)や体調に関する問診への回答を手軽に入力・記録できます。自分の体の変化を“見える化”することで、患者さん自身が健康状態をより深く理解し、病気と向き合うためのモチベーション維持に繋がるでしょう。

さらに、アプリは日々の自己管理をサポートするさまざまなコンテンツを提供します。

  • 管理栄養士監修の心不全患者さん向け食事レシピ: 食事制限が必要な方でも、美味しく健康的な食生活を送れるよう、専門家が考案したレシピが提供されます。(協力:株式会社おいしい健康)

  • 専門職協力のセルフケア動画: VAD(補助人工心臓)外来看護師など、専門家が監修したセルフケア動画を通じて、自宅でできる運動や日々のケア方法を学ぶことができます。(協力:「大阪大学医学部附属病院心臓血管外科」)

これらのコンテンツは、患者さんが無理なく健康的な行動を継続できるよう、具体的なヒントとサポートを提供してくれるはずです。まるで、いつでもどこでもあなたの健康を支えるパーソナルコーチがいるような心強さを感じられるかもしれませんね。

そして、このアプリに記録されたPHRデータは、患者さんご自身の同意のもと、医療機関や医療・介護従事者(多職種)と共有されます。この情報共有が、あなたの健康を支える「チーム」の連携をより強固なものにします。

医療現場も変化!チームで支える新しいケアの形

心不全の治療やケアは、医師だけでなく、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士など、多くの専門家が連携して行うことが理想とされています。しかし、これまでは患者さんの情報共有や多職種間のコミュニケーションに時間や手間がかかることが少なくありませんでした。

この「在宅心不全自己管理支援サービス」では、PHRアプリを通じて患者さんのデータがリアルタイムで多職種に共有されます。これにより、医療・介護従事者は患者さんの日々の状態を正確に把握し、必要なタイミングで適切な介入を行うことが可能になります。例えば、アプリの記録から体調の変化に気づいた多職種が、すぐに患者さんや他の専門家と双方向でコミュニケーションを取り、迅速なアドバイスや診察に繋げるといったことが期待されます。

多職種間の情報連携がスムーズになることで、患者さんにとっては「いつでも見守られている」という安心感が得られ、医療・介護従事者にとっては業務の効率化とケアの質の向上に繋がります。これは、患者さんだけでなく、医療を提供する側にとっても大きなメリットとなるでしょう。

共同検討事業者の役割と想い

この画期的な取り組みは、それぞれの専門分野を持つ3者の協力によって成り立っています。各社の具体的な役割は以下の通りです。

共同検討事業者の役割

  • 阪急阪神ホールディングス株式会社:PHRアプリ「いきいき羅針盤」や心不全患者さん向け自己管理アプリ「LVAD自己管理記録ノート」の提供、実証全体での取りまとめ、実証事業の実施・運営管理を担います。

  • 株式会社日立製作所:実証事業の計画・実施・評価に関わる業務の支援やビジネスモデルの検証、モデルの横展開の検討を行います。

  • 国立大学法人 大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学講座:実証参加患者の選定、検証項目の検討支援、食事・運動などコンテンツの監修、ビジネスモデル構築に向けた検討支援を行います。

これらの専門性と経験が結集することで、心不全患者さんのための、より質の高いサービスが実現されることでしょう。

未来へ向けて:広がる支援の輪と持続可能な医療モデル

この共同検討は、すでに具体的な実証段階へと進んでいます。2025年度には、経済産業省の「令和7年度ヘルスケア産業基盤高度化推進事業(PHRを活用した多職種連携におけるユースケース創出に向けた実証調査事業)」の一環として、サービスの本格的な実証が行われる予定です。

具体的には、2025年11月から2026年1月までの3カ月間、大阪大学医学部附属病院に通う心不全ステージD(最も重症度が高い段階)の患者さんを対象に、PHRアプリと多職種情報連携ICTを活用したサービスが提供されます。

この実証を通じて、サービスが患者さん・介護者のQOL向上や多職種の業務効率化・ケアの質向上にもたらす効果が検証され、必要なPHRデータ項目が抽出されます。そして、患者さんと多職種双方からのマネタイズによる持続可能なサービス構築に向けたビジネスモデルの具体化も進められます。

まずは最も細やかな情報連携が求められる心不全ステージDの患者さんを対象としますが、将来的には、より多くの患者さんがいるステージC、ステージBへと適用範囲を広げることがめざされています。

さらに、2026年度以降は、参画する医療機関や対象患者数を拡大し、サービスの社会実装を加速させていく計画です。患者さんの重症化や再入院を予防することによる医療・介護費の削減効果や、患者さん・介護者の就労継続による経済効果など、社会全体へのポジティブな影響についてもエビデンスを蓄積していくとのことです。蓄積されたデータは、将来的にAI診療支援など、さらなるサービスの拡張にも活用されるかもしれません。

この取り組みは、国や自治体をも巻き込み、持続可能な医療モデルの実現と、ヘルスケアエコシステムの構築という壮大なビジョンへと繋がっています。誰もが安心して健康に暮らせる社会の実現に向けて、デジタル技術が大きな役割を果たすことになるでしょう。

あなたの健康を支えるデジタル活用

心不全という病気は、日々の生活の中で自己管理が非常に重要になります。しかし、その継続は容易なことではありません。この「在宅心不全自己管理支援サービス」は、そんな患者さんやご家族の負担を軽減し、より前向きに病気と向き合うための強力な味方となるでしょう。

デジタル技術が、あなたの健康を「見える化」し、専門家との繋がりを深め、日々の生活に安心と希望をもたらしてくれるはずです。この新しいサービスが、心不全で困っているすべての人にとって、より良い未来への羅針盤となることを願っています。


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