犬に咬まれた時の破傷風予防注射について

犬に咬まれてしまったとき、傷そのものの心配と一緒に、「破傷風の注射を打たなくて大丈夫だろうか」と不安になることはありませんか?テレビなどで「破傷風は怖い」と耳にする機会もあり、咬まれた直後はとくに気になりますよね。

結論を先にお伝えすると、破傷風トキソイドや抗破傷風人免疫グロブリン(テタノブリン)を打つかどうは、**「これまでの破傷風ワクチンの接種歴」と「傷の状態」**の組み合わせで決まります。全員に一律で打つものでも、まったく不要なものでもありません。順番に整理していきましょう。

まず最優先は、傷の手当て

注射の話の前に、いちばん大切なのは傷の洗浄です。咬まれた直後は、流水と石けんで傷の奥までしっかり洗い流すことが基本とされています。深い傷や出血が多い傷、関節や手・顔の傷は、自己処置だけで様子を見ず、医療機関を受診しましょう。咬傷は見た目より深く、内部で組織が傷んでいることがあります。

犬に咬まれたときに問題になる3つのポイント

**1. 細菌感染**
犬の口の中にはさまざまな細菌がいます。咬傷では、パスツレラ菌をはじめとする細菌による傷の感染が起こることがあります。とくに深い傷や手の咬傷では感染しやすく、状況に応じて予防的に抗菌薬(アモキシシリン・クラブラン酸など)が用いられることがあります。咬まれた翌日以降に、傷の赤み・腫れ・痛みが強くなる、熱を持つ、膿が出るといった場合は、感染のサインなので受診してください。

**2. 破傷風**
破傷風は、土の中などにいる破傷風菌が傷口から入り、菌の出す毒素によって筋肉のけいれんや硬直を起こす病気です。咬傷や汚れた傷は破傷風菌が入りやすい「リスクの高い傷」とされ、咬まれた状況によっては予防が必要になります。この破傷風の予防が、トキソイドとテタノブリンの話につながります。

**3. 狂犬病**
「咬まれたら狂犬病が心配」という声もよく聞きますね。日本国内では長年、動物から人への狂犬病の発生は報告されておらず、国内で飼われている犬に咬まれた場合に、狂犬病の予防接種が必要になることは通常ありません。一方で、海外(とくにアジアやアフリカなど)で犬やその他の動物に咬まれた場合は事情が異なり、現地での処置や帰国後の対応が必要になります。

破傷風トキソイドとテタノブリンは何が違うのか

名前が似ていて混乱しやすいのですが、この2つは役割がまったく違います。

**破傷風トキソイド(ワクチン)**:破傷風菌の毒素を無毒化したワクチンです。打つことで体が自分の免疫(抗体)をつくり、その後の発症を防ぎます。効果が出るまでに時間がかかりますが、長く持続するのが特徴です。「能動免疫」と呼ばれます。

**抗破傷風人免疫グロブリン(テタノブリン)**:すでにできあがった抗体そのものを注射する薬です。体の中の毒素をすぐに中和する目的で使われます。即効性がある一方、効果は一時的です。「受動免疫」と呼ばれます。

つまり、トキソイドは「これから免疫をつくる」薬、テタノブリンは「今ある毒素をすぐ抑える」薬なんですね。免疫が十分にない人がリスクの高い傷を負ったときには、この2つを併用することがあります。

打つべきかは「ワクチン歴 × 傷の状態」で決まる

**知っておきたい「1968年」の話**
日本で破傷風を含むワクチン(三種混合など)の定期接種が始まったのは1968年(昭和43年)です。そのため、**1968年より前に生まれた方は、子どものころに破傷風の基礎免疫をつくる接種を受けていない可能性が高い**とされています。また、1975年前後にワクチン接種が一時的に見合わされた時期があり、その世代の方も接種が十分でないことがあります。

ご自身の接種歴がはっきりしない場合は、その点も含めて医療機関で相談していただくのが安全です。

**判断の目安**
破傷風の予防は、一般的に次のように考えられています(実際の判断は傷の状態を診たうえで行います)。

– **基礎免疫(3回)を済ませており、最後の接種からの年数が浅い場合**:きれいな小さい傷なら最後の接種から10年以内、咬傷など汚れた傷なら5年以内であれば、追加接種は基本的に不要とされています。

– **最後の接種から年数が経っている場合**:破傷風の防御抗体は10年ほどで下がっていくとされ、年数が空いていれば破傷風トキソイド(追加接種)が検討されます。

– **接種歴が不明、または基礎免疫が不十分で、咬傷など汚れた傷の場合**:破傷風トキソイドに加えて、抗破傷風人免疫グロブリン(テタノブリン)の併用が検討されます。免疫ができるまでの間を、抗体そのもので補う考え方です。

このように、テタノブリンまで必要になるのは「免疫が不十分・不明な方が、リスクの高い傷を負ったとき」が中心です。きちんと接種歴のある方が小さな傷を負っただけなら、何も追加しないこともあります。

こんなときは早めに受診を

以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう:

– 傷が深い、出血が止まりにくい、手・顔・関節を咬まれた
– 翌日以降に赤み・腫れ・痛みが強くなる、熱を持つ、膿が出る
– これまでの破傷風ワクチンの接種歴がわからない、または受けていない
– 海外で動物に咬まれた
– 口の開けにくさ、首や背中のこわばり、けいれんなど、いつもと違う症状がある

とくに最後の「口の開けにくさ・筋肉のこわばり」は、破傷風で注意すべき症状です。咬まれてから数日〜2週間ほど経って出ることもあるため、心当たりがあれば早めに受診してください。

まとめ

犬に咬まれたときに破傷風の注射を打つべきかは、「全員打つ」でも「打たなくてよい」でもなく、ワクチン歴と傷の状態で決まります。まずは傷をよく洗い、接種歴がはっきりしない方やリスクの高い傷の方は、自己判断せず医療機関にご相談ください。適切な対処により、感染症のリスクを最小限に抑えることができます。

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