「百日咳」が過去最大の流行中!薬が効かない耐性菌も急増…今、私たちにできること

「百日咳」という病気、最近耳にすることが増えた方もいるかもしれませんね。実は今、百日咳が過去最大規模で流行しており、さらに治療に使われる薬が効きにくい「耐性菌」まで現れて、治療が難しくなっているんです。特に小さなお子さんを持つご家庭や、長引く咳に悩まされている方は、ぜひこの記事を読んで、正しい知識と対策を身につけてくださいね。

百日咳ってどんな病気?今、何が起きているの?

百日咳は、百日咳菌という細菌が気道に感染して起こる病気です。特徴的なのは、コンコンコンと短い咳が連続的に出て、息を吸い込むときに「ヒュー」という笛のような音がする発作性の咳です。この咳が2〜3ヶ月も続くことがあるため、「百日咳」と呼ばれています。

過去最大の流行、特に10代に急増!

驚くことに、2025年には百日咳の報告件数が8万9,000件を超え、全数報告が義務付けられた2018年以降で最大の流行となっています。新型コロナウイルス感染症が流行していた時期は一時的に減っていたのですが、2024年から再び増加に転じ、2025年には一気に患者さんが増えました。

潜在的な患者さんを含めると、100万人を超えているのではないか、と指摘する専門家もいるほどです。

2018年以降の国内における百日咳の累積報告件数
図1:2018年以降の国内における百日咳の累積報告件数 (2018~2025年)

年齢別に見ると、患者さんの約6割が10代の子どもたち。次いで1〜9歳が2割を占めています。

2025年 第1~21週における百日咳の累積報告数の年齢分布
図2:2025年 第1~21週における百日咳の累積報告数の年齢分布

麻疹に匹敵する感染力!赤ちゃんは特に要注意!

百日咳菌の感染力は非常に強く、なんと麻疹(はしか)に匹敵すると言われています。免疫がない家族が感染者と接触すると、80%以上の確率で感染してしまうという報告もあるほどです。

特に注意が必要なのは、ワクチンをまだ接種していない乳幼児です。乳児期早期に百日咳にかかると、特徴的な咳が出ずに、息を止めるような無呼吸発作を起こし、チアノーゼやけいれん、時には呼吸停止に至ることもあります。0歳で発症すると、半数以上が入院治療が必要になると報告されており、重症化リスクが非常に高いのです。お子さんの咳が長引いたり、いつもと違うと感じたら、すぐに医療機関を受診してください。

参照:

ワクチンが大切!そして、より効果的な予防策とは?

百日咳はワクチンで予防できる感染症です。ワクチンが導入される前は、日本では年間10万人以上が百日咳にかかり、そのうち10%もの方が命を落としていました。ワクチンの普及により、患者数は大幅に減少し、日本は世界でも百日咳の罹患率が低い国の一つとなっています。

現在、日本では生後2ヶ月以降の0歳代に3回、1歳代に1回追加する、計4回のワクチン接種が定期接種として行われています。最近では、免疫の持続性を高めるための追加接種についても検討が進められています。感染症から身を守るために、国や関係機関はワクチンの安定供給にも力を入れています。

困った!薬が効かないかも?耐性菌の話

百日咳の治療では、通常「マクロライド系抗菌薬」が第一選択薬として使われます。しかし、ここに大きな問題が浮上しています。

マクロライド耐性百日咳菌が世界中で拡散中!

2011年に中国で報告されて以来、「マクロライド耐性百日咳菌(MRBP)」という、マクロライド系抗菌薬が効きにくい菌が世界中に広がっています。

世界におけるマクロライド耐性百日咳菌の状況
図3:世界におけるマクロライド耐性百日咳菌の状況

日本でも2024年からMRBPの報告が見られるようになり、2025年に地方衛生研究所で行われた検査では、なんと約8割もの菌がマクロライド耐性株だったという結果が出ています。これは非常に深刻な状況です。

東京都立小児総合医療センターの堀越裕歩先生の報告によると、MRBPに感染した患者さんには、ワクチン未接種、兄弟姉妹間の感染、そして有効な治療開始の遅れによる症状の遷延化といった特徴が見られたそうです。特に、重症化しやすいワクチン未接種の乳幼児の場合、抗菌薬が効かないと命に関わるため、最初からマクロライド系抗菌薬と「ST合剤」という別の種類の抗菌薬を併用する治療が必要になる可能性も指摘されています。

日本小児科学会も、生後2ヶ月未満の乳児に対するST合剤の併用を検討するよう注意喚起を出しており、治療選択が大きな転換期を迎えていることが分かります。

参照:

どうすればいいの?私たちにできること

このような状況で、私たち一人ひとりができることは何でしょうか?

早期診断と適切な治療がカギ!

百日咳の治療で抗菌薬が最も効果を発揮するのは、症状が出始めたばかりの「カタル期」と呼ばれる時期です。この時期に治療を始めれば、咳の進行を抑えられ、感染の拡大も防ぐことができます。しかし、特徴的な咳が出始める「痙咳期」に入ってからでは、抗菌薬の効果は限定的になってしまいます。

そのため、早期に百日咳と診断することが非常に重要です。現在はPCR法やLAMP法といった遺伝子検査、さらに迅速抗原検査キットなども登場しています。血液検査も活用できる場合があります。

堀越先生は「耐性菌が出ている現在、可能な施設では培養検査もぜひ行ってほしい」と訴えられています。培養検査は菌の証明や薬剤感受性検査(どの薬が効くか調べる検査)のために重要だからです。

参照:国立感染症研究所 百日咳の検査診断: https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/7081-444r06.html

医療機関を受診するタイミングとヒント

長引く咳は百日咳以外にも、気管支喘息やマイコプラズマ感染症など、さまざまな病気の可能性があります。では、どのような場合に百日咳を疑って医療機関を受診すべきでしょうか?

堀越先生は「感染が疑われる本人だけでなく、家族に長引く咳をしている人がいないか、また小学校から高校世代の家族がいる場合には学校での流行状況を確認することが診断のヒントになる」と指摘されています。特に乳幼児がいるご家庭では、学童期の子どもが同居していることも多く、年長児や成人では典型的な症状が出ないこともあります。そのため、周囲に長引く咳が見られる場合は百日咳の可能性を念頭に置き、早めに医療機関を受診することが大切です。

特に、ワクチン未接種の乳幼児で百日咳が否定できない場合は、速やかに専門の施設を受診したり、検査を活用したりして対応することが求められます。乳幼児や妊婦と接触する機会が多い方も、咳が続く場合は早めに受診しましょう。

基本的な感染対策と抗菌薬の適正使用

薬剤耐性菌対策は、百日咳に限らず、他の耐性菌対策と同じです。以下のことを心がけましょう。

  • 手洗い・マスクの活用: 基本的な感染対策を徹底しましょう。

  • 確実なワクチン接種: 感染予防の最も重要な手段です。

  • 適切な抗菌薬治療: 診断が確定しないまま安易に抗菌薬を使うと、治療対象以外の細菌にも薬剤耐性を誘導してしまう可能性があります。医師の指示に従い、きちんと診断を付けてから、適切な抗菌薬を適切な期間使用することが重要です。

堀越先生も「ST合剤耐性の百日咳菌を作らないためにも、抗菌薬治療はしっかりした診断の上で行うべき」と警鐘を鳴らしています。

まとめ

百日咳の流行と薬剤耐性菌の出現は、私たちにとって非常に身近で重要な健康問題です。しかし、恐れるばかりではありません。適切な診断と適正な抗菌薬使用、そして手洗いやマスク、ワクチン接種といった基本的な感染対策をしっかり行うことで、この難局を乗り越えることができます。

もし、あなたやご家族で長引く咳に悩まされている方がいたら、今回の記事を参考に、冷静に、そして科学的知見に基づいた行動をとってください。大切な人を守るために、正しい知識と行動が何よりも重要です。

参照:AMR臨床リファレンスセンター: https://amr.jihs.go.jp/

堀越 裕歩 先生
東京都立小児総合医療センター 感染症科 部長 堀越 裕歩 先生