新しい治療のチャンスを見逃さないために
もしあなたが病気と闘っていて、今の治療法以外にもっと良い選択肢がないかと考えているなら、「治験」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。治験とは、新しい薬や治療法が実際に患者さんに安全で効果があるかを確かめるための大切なステップです。しかし、日本では新しい薬がなかなか承認されず、海外で使える薬が国内では使えない「ドラッグロス」という問題が指摘されています。これは、治験がスムーズに進まないことも一因とされています。
そんな中、乳がん患者さんと乳腺外科医を対象に行われたある調査が、このドラッグロス解消への大きなヒントを与えてくれるかもしれません。株式会社ケアネットと株式会社イシュランが共同で実施した「治験に関する意識調査」に基づく研究論文が、医学学術雑誌『THERAPEUTIC RESEARCH』(2025年12月号)に掲載されました。
この調査は、治験情報に対する患者さんの期待と、実際に医療現場で働く医師の状況との間にどんなギャップがあるのかを詳しく調べたものです。その結果、医師が患者さんに治験を提案することにとても前向きである一方で、医師自身に治験情報が十分に届いていないという、意外な現状が明らかになりました。
治験に関する患者さんと医師の意識のギャップ
今回の研究では、134名の乳がん患者さんと50名の乳腺外科医が対象となりました。治験情報に対するそれぞれの認識の違いを分析した結果、主に二つの大きなギャップが見つかりました。
医師の治験認知度は患者さんの期待を下回る
患者さんの88.8%が「主治医は治験をよく知っているだろう」と予想していました。しかし、実際に「治験をよく知っている」と回答した医師は57.6%にとどまり、「ほぼ知らない」と答えた医師が42.4%にも上ったのです。

この結果から、患者さんが抱く「主治医は治験情報を把握しているはず」という期待と、医師が実際に持っている情報量との間には、大きな隔たりがあることが分かりました。つまり、多くの患者さんは主治医が治験について詳しいと考えているけれど、実際にはそうではない医師も少なくないということです。

医師の治験提案意欲は患者さんの予想よりも高い
一方で、治験の提案については、とても心強い結果が出ました。
「主治医が治験を提案してくれるだろう」と予想した患者さんは42.5%でした。これに対し、実際に「(適切な情報を得られれば)提案したい」と回答した医師はなんと86.4%に達しました。多くの医師が、患者さんに治験を提案したいという強い意欲を持っていることが明らかになったのです。

この結果は、患者さんの予想を大きく上回るもので、ここにも大きなギャップがあることが示されました。医師は患者さんに新しい治療の機会を提供したいと強く願っているのに、それが患者さんに十分に伝わっていない、あるいは情報が不足しているために提案できない状況があるのかもしれません。

この発見が示す未来への希望
今回の調査で浮き彫りになったのは、「乳腺外科医は患者さんに治験を提案したいという強い気持ちを持っているのに、治験情報が医師自身に十分に届いていない」という現状です。これは、情報がうまく伝わっていないという、とてももったいない状況ですよね。
この情報伝達の課題を解決し、医師が患者さんに適切なタイミングで治験情報を伝えられるような環境を整えることが、治験に参加する機会を増やし、ドラッグロスを解消するための大切な鍵となります。もし情報がスムーズに届けば、より多くの患者さんが新しい治療の選択肢を知り、希望を持つことができるでしょう。
ケアネットは、この課題を解決するために、すでに具体的な取り組みを始めています。2025年10月より、医師向けのポータルサイト「CareNet.com」内に「治験・臨床研究コーナー」を新設しました。24万人以上の医師会員が利用するこのプラットフォームを活用して、忙しい医師でも臨床現場で素早く国内の治験情報を確認できるような仕組みを提供しています。これにより、情報不足による機会損失を防ぎ、新たな治療機会の創出とドラッグロス解消に貢献していくとのことです。
掲載論文の詳細
今回の研究結果は、以下の論文として発表されています。
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タイトル:日本におけるドラッグロス解消への課題―治験における医師と患者の情報・意識ギャップ―
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掲載誌:『THERAPEUTIC RESEARCH』Vol.46 No.12(2025年)
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著者:鈴木 渉、鈴木英介、野本 司、志賀 保夫、川添 茂樹
ケアネットとイシュランについて
今回の調査を共同で実施した二つの会社についてご紹介します。
株式会社イシュラン
株式会社イシュランは、ウェブコンテンツの企画制作・提供やインターネットサービスに関するマーケティング・コンサルティングなどを主な事業としています。乳がんに関する情報サイト「イシュラン乳がん」も運営しています。
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イシュラン乳がん:https://www.ishuran.com/
株式会社ケアネット
ケアネットグループは「知と情熱と行動力で、医療人を支え、医療の未来を動かす。」をパーパスに掲げ、24万人の医師会員を有する「CareNet.com」を基盤に幅広い事業を展開しています。医療の人材・教育・経営から新薬の開発・治験・普及支援まで、医療・医薬分野の専門サービスを提供しています。
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CareNet.com:https://www.carenet.com/
まとめ
今回の調査結果は、病気で困っている私たちにとって、とても希望の持てる内容だったのではないでしょうか。医師の先生方が、私たち患者のために新しい治療の機会を探し、提案したいと強く思ってくださっていることが分かりました。そして、そのための情報伝達の仕組みも、少しずつですが整えられようとしています。
もしあなたが新しい治療法について知りたいと思ったら、主治医の先生に積極的に質問してみるのも良いかもしれません。情報がよりスムーズに医療現場に届き、私たち患者さんの元へと繋がる未来に期待しましょう。
