「日本学士院学術奨励賞」ってどんな賞?

この賞は、日本の学術界で最も権威のある「日本学士院」が、特に優れた研究成果を上げた若手研究者をたたえ、これからのさらなる活躍を応援するために創設されたものです。毎年、日本学術振興会賞を受賞した研究者の中から、さらに選りすぐりの6人以内だけが選ばれる、まさにトップランナーの証しともいえる、とても名誉ある賞なんです。冨樫教授は、その狭き門を見事に突破し、受賞を手にされました。

授賞式は、2027年2月3日に東京にある日本学士院で行われる予定です。

がん細胞の「ずる賢い手口」を解明!

冨樫教授の受賞対象となった研究は、「ミトコンドリア伝播による新たながん免疫逃避機構の解明」というものです。なんだか難しそうな言葉が並んでいますね。でも、ご安心ください。これを分かりやすくご説明すると、がん細胞が私たちの体の中で、どのようにして免疫細胞の攻撃から逃れているのか、その新しい仕組みを明らかにした、という画期的な発見なんです。

私たちの体には、「免疫」という素晴らしい防衛システムがあります。このシステムの中にいる「Tリンパ球」という細胞は、がん細胞を見つけると攻撃して排除してくれる、いわば体の「警察官」のような存在です。しかし、がん細胞はとてもずる賢く、この警察官の目をかいくぐったり、攻撃をかわしたりする方法を次々と編み出してしまいます。

冨樫教授が今回発見したのは、がん細胞が免疫から逃れるための、これまでに知られていなかった、非常に巧妙な手口でした。それは、がん細胞の中にある「ミトコンドリア」という小さな発電所のような器官が関係しています。

がん細胞からTリンパ球への「スパイ」

細胞の中には、エネルギーを作り出す大切な役割を担う「ミトコンドリア」があります。がん細胞は、このミトコンドリアの遺伝子に異常(変異)を持っていることが少なくありません。

冨樫教授は、この「変異したミトコンドリア」が、がん細胞から細胞の外に出て、なんと私たちの体の警察官であるTリンパ球に「こっそり」送り込まれていることを発見したのです。まるで、がん細胞がTリンパ球の中にスパイを送り込んでいるかのようです。

このスパイ(変異ミトコンドリア)を受け取ってしまったTリンパ球は、どうなってしまうのでしょうか? 実は、この変異ミトコンドリアは、Tリンパ球の中でどんどん増えてしまい、本来Tリンパ球が持っているエネルギーを作り出す力を弱めてしまうことが分かりました。

エネルギー不足になったTリンパ球は、がん細胞を攻撃する能力が著しく低下してしまいます。結果として、がんは警察官であるTリンパ球の攻撃から逃れることができるようになる、というわけです。この発見は、がん細胞の免疫逃避メカニズムに全く新しい視点をもたらし、世界中の研究者を驚かせました。

未来のがん治療への大きな期待

この画期的な発見は、がんとの闘い方を変える、大きな可能性を秘めています。冨樫教授の研究によって、私たちは次のような未来に期待を寄せることができます。

  1. 新しい治療法の開発:がん細胞からTリンパ球へのミトコンドリア伝播を「止める」ことで、Tリンパ球が本来の力を取り戻し、がん細胞を攻撃できるようになるかもしれません。この伝播を阻害する薬の開発が進めば、これまで治療が難しかったがんに対しても、新しい治療の選択肢が生まれる可能性があります。
  2. 患者さん一人ひとりに合った治療:がん免疫療法は、すべての人に同じように効果があるわけではありません。冨樫教授の発見は、がん細胞がミトコンドリア伝播を利用して免疫から逃れているかどうかを調べることで、「この治療法が効きやすい患者さんは誰か」を、治療を始める前に見極めることができるようになるかもしれません。これにより、無駄な治療を避け、より効果的な治療を適切な患者さんに届けられるようになることが期待されます。

冨樫教授自身も、「今後は、免疫療法が奏効しやすい患者さんをより正確に見極める指標の開発や、ミトコンドリア伝播を抑制する治療法の可能性について、基礎と臨床の両面から検証していきたいと考えています」と語っています。

冨樫庸介教授

偶然の出会いと、研究への情熱

冨樫教授は、受賞に際して次のようにコメントされています。「このたびの受賞を大変光栄に存じます。がん細胞が持つ変異ミトコンドリアが周囲のT細胞へ移行し、その機能を低下させることで、がんが免疫から逃れる新たな仕組みを示しました。約5年前、研究室を立ち上げたばかりの頃に、他にはない着想から独創性の高い研究に取り組みたいと考え、偶然出会ったテーマに挑戦しました。多くの幸運と周囲の支えにも恵まれ、本研究をここまで進めることができました。今後も、そのような着想や偶然の出会いを大切にしながら研究を進めてまいります。」

この言葉からは、研究への真摯な姿勢と、新しい発見への喜び、そして周囲への感謝の気持ちが伝わってきます。まさに、研究者の情熱と努力が、私たちに希望を与えてくれることを実感させられますね。

岡山大学からのメッセージ

岡山大学は、このような革新的な研究を支えるために、様々な取り組みを行っています。特に、文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択されており、地域と地球の未来を共創し、世界の革新の中核となる研究大学を目指しています。

J-PEAKSと岡山大学病院

岡山大学 J-PEAKS

岡山大学 SDGs

また、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」を支援し、政府の第1回「ジャパンSDGsアワード」特別賞を受賞するなど、社会貢献にも力を入れています。このような環境が、冨樫教授のような世界的な研究者を育み、私たちに新しい希望をもたらしてくれているのですね。

あなたへのメッセージ:未来はきっと明るい

がんという病気と向き合うことは、決して簡単なことではありません。しかし、冨樫教授の研究のように、世界のどこかで、日々新しい発見が生まれ、治療の可能性が広がり続けています。今日の困難が、明日の希望へと変わる可能性は、常に存在しているのです。

この研究成果は、あなたが今抱えている不安をすぐに解消するものではないかもしれません。ですが、着実に、そして力強く、がん治療の未来が明るい方向へと進んでいることを示しています。どうか、希望を胸に、前向きな気持ちで過ごしてください。そして、これからも最新の研究や医療の進歩に耳を傾けてみてください。きっと、あなた自身の治療や、大切な人の治療に役立つ情報が見つかることでしょう。

私たちは、研究者たちのたゆまぬ努力と情熱が、すべてのがん患者さんとそのご家族に、より良い未来をもたらしてくれると信じています。

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