甲状腺手術、傷跡の心配を少しでも減らしたいあなたへ
甲状腺に病気が見つかり、手術が必要と診断されたとき、治療の効果や安全性はもちろん大切ですよね。でも、特に女性の方や若い方にとっては、「首にできる傷跡」も大きな心配事の一つではないでしょうか。鏡を見るたびに、その傷跡が目に入ると、心の負担になってしまうこともありますよね。
これまでの甲状腺手術では、首に8〜10cmほどの切開を加えるのが一般的でした。このサイズの傷跡は、どうしても目立ちやすく、手術後の生活で「隠したい」と感じる方も少なくありませんでした。
そんな「傷跡の悩み」に寄り添い、患者さんの負担を少しでも減らそうと、新しい手術方法の研究が進められてきました。そして今回、大阪けいさつ病院の内分泌甲状腺外科が、長年にわたる取り組みの成果として、「頸部小切開MHM法(新Tori法)」という術式の15年間の治療実績を公開し、全国の医療機関に向けて情報発信を始めたんです。
この「小切開MHM法」は、「傷跡が目立ちにくい」「安全性も高い」「病気をしっかり治せる」という、患者さんが本当に望む3つのポイントを高いレベルで実現できる、まさに“次世代の標準術式”として期待されています。
小切開MHM法(新Tori法)ってどんな手術?
では、具体的に「頸部小切開MHM法(新Tori法)」とはどんな手術なのでしょうか?
まず一番の特徴は、その名の通り「小切開」であること。従来の8〜10cmの切開と比べて、なんと片側わずか2〜3cmの切開で手術が可能になるんです。これは、首の目立つ位置にできる傷跡を大幅に小さくできるということ。特に、見た目を気にされる若年層の方々にとっては、術後の心理的な負担が大きく軽減されることでしょう。
MHMって何?
「MHM」とは、「Muscle-hanging maneuver」の略称です。これは、手術をする場所(術野)を確保するための特別な工夫を指します。通常の甲状腺手術と同等の安全性を保ちながら、切開を最小限に抑えるために開発された手技なんですよ。
HET法からの進化
大阪けいさつ病院では、2011年から「HET(Hybrid-type Endoscopic Thyroidectomy:Tori法)」という、内視鏡を使ったハイブリッド型の手術にも取り組んできました。HET法では、片葉切除で1.5〜2.0cm、全摘で2.5〜3.0cmの小さな切開と、5mmの内視鏡ポートを組み合わせることで、傷跡を小さくしていました。
ところが、その経験の中で、「内視鏡を使わなくても、手術のやり方を工夫すれば、HET法とほとんど同じくらいの小さな傷(+0.5cm以内)で手術ができる!」ということがわかってきたんです。HET法で培った技術やノウハウを、内視鏡を使わない通常の手術に応用して発展させたのが、この「小切開MHM法(新Tori法)」なんです。
甲状腺手術の術式選択フローチャートは以下のようになります。

この図を見ると、ほとんどの症例でMHM法が適用可能であることがわかりますね。
15年間の実績が語る「安全性」と「根治性」
「傷跡が小さいのは嬉しいけど、ちゃんと病気を治せるの?安全なの?」
そう思うのは当然ですよね。小切開手術に対しては、「安全性が下がってしまうのでは?」「病気をしっかり取りきれないのでは?」といった心配の声が聞かれることもありました。
しかし、大阪けいさつ病院が2011年から実施してきた小切開手術(HET法とMHM法を合わせたもの)は、これまでに累計880例にも上ります。そして、その15年間の実績が、これらの心配をきっぱりと否定する、非常に素晴らしいデータを示しているんです。
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術中反回神経誤切断:0例
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術後出血:0例
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手術関連死亡:0%
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長期経過における原病死:0例
これらの数字は、小切開手術であっても、むしろ極めて高いレベルで安全性が保たれていることを意味します。手術中に声帯を動かす大切な神経(反回神経)を傷つけてしまうリスクや、術後の出血、さらには手術が原因で命を落とすといった、患者さんにとって最も恐ろしい合併症がゼロだったというのは、本当に驚くべきことです。
さらに、今回の情報公開では、これまでの症例データを改めて詳しく分析し、手術中の神経保護の状況、術後の合併症の発生率、傷跡の見た目、そして長期的な病気の予後など、さまざまな角度から治療成績を評価しました。その結果、小さな切開であっても、従来の大きな切開で行う手術と同じくらい、病気を確実に治せる力(根治性)がしっかりと保たれていることが明らかになったんです。
「小切開だからといって、手術の質が落ちることはない」ということが、この多角的な検証によって、より確かなものとして裏付けられたわけですね。
術後の傷跡はこんなに目立たない!
実際にMHM法で手術を受けた患者さんの術後写真を見ると、その整容性の高さがよくわかります。

20代女性の甲状腺癌(葉切除+リンパ節郭清)では創長2cm、30代女性の甲状腺癌(全摘+リンパ節郭清)では創長2.3cmと、非常に小さな傷跡であることが確認できます。これなら、首元のおしゃれも楽しめそうですね。
小さな切開でも、病気をしっかり治すための工夫
「どうしてそんな小さな切開で、安全に、しかも病気をしっかり治せるの?」
そう疑問に思う方もいるかもしれませんね。大阪けいさつ病院では、小切開であっても根治性を損なわないよう、手術中の安全管理と、非常に細かく正確な操作を徹底しているんです。
具体的には、以下のような工夫がされています。
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神経刺激装置の活用:必要に応じてNIM(神経モニタリングシステム)も併用し、声帯を動かす反回神経や、上喉頭神経外枝といった大切な神経を、手術中に確実に確認します。これにより、神経を傷つけるリスクを最小限に抑えています。
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マイクロ用器具や深部結紮器、VSSの組み合わせ:狭い術野でも、細かな作業ができる専用の器具や、体の深い部分をしっかり結紮できる器具、そして血管を安全に処理できるVSS(Vessel Sealing System)などを巧みに組み合わせて使います。これによって、気管に癌が浸潤している部分の切除や、リンパ節の徹底的な郭清(病気のあるリンパ節を取り除くこと)、さらには血管や組織を確実かつ安全に処理することが、小さな切開でも可能になっているんです。
ただし、この術式は、整容性のメリットが特に大きい45歳未満の患者さんを原則的な対象としています。もちろん、個々の病状や医師の判断によって、対象が広がる可能性もありますので、気になる方は医療機関に相談してみてくださいね。
特殊な設備は不要!全国の病院で導入できる可能性
この「小切開MHM法」のもう一つの大きなポイントは、特別な設備を必要としないという点です。
最近では、内視鏡手術やロボット支援手術など、高度な医療機器を使った手術も増えていますが、小切開MHM法は、そうした高価な内視鏡やロボット支援装置がなくても実施できるんです。通常の甲状腺手術を行うための基本的な外科器具があれば導入できます。
これは何を意味するかというと、都市部の大病院だけでなく、地域の中核病院など、全国のさまざまな医療機関でこの手術が導入できる可能性があるということ。
「傷跡が目立たない」「安全性も高い」「病気をしっかり治せる」という、患者さんにとって嬉しいメリットをすべて満たしながら、特定の環境に左右されないこの術式は、まさに全国の医療現場にとって「次なる標準」となり得る、大きな可能性を秘めていると言えるでしょう。
全国への普及に向けて
大阪けいさつ病院は、今回の治療成績の公開を通して、この「MHM法」の素晴らしさを、全国の医療機関、そして何よりも、これから甲状腺の手術を受けることになるすべての患者さんに広く知ってもらいたいと考えています。
現時点では、この術式を全国に普及させるための具体的な活動を積極的に進めているわけではないそうですが、もしこの術式に関心を持った医療機関があれば、可能な範囲で情報提供などの協力をしていく姿勢を示しています。
この「小切開MHM法」が、患者さんにとって、もっと心と体に優しい治療選択肢として、大阪けいさつ病院から全国の医療現場へ広まっていくことを、心から願っています。
もし、この手術についてさらに詳しく知りたい方や、治療を検討されている方は、以下の大阪けいさつ病院のウェブサイトを確認したり、直接問い合わせてみたりするのも良いかもしれませんね。
お問い合わせ先
社会医療法人大阪国際メディカル&サイエンスセンター 大阪けいさつ病院 内分泌甲状腺外科
住所:大阪市天王寺区烏ヶ辻2-6-40
電話番号:06-6771-6051(代表)
