膠原病患者さんの「孤立」に終止符を!見えない壁を壊すヒントとは?

「自分の病気のこと、どう伝えたらいいか分からない」「誰も私のつらさを理解してくれない気がする」。もしあなたが膠原病という病気と向き合っているなら、こんな風に感じたことがあるかもしれませんね。膠原病は、その病状や治療法、そして日常生活への影響がとても複雑なため、患者さんご自身だけでなく、ご家族、医師、さらには学校や職場など、周囲の人々との間に「認識のズレ」が生じやすい病気です。このズレが、患者さんを深い「孤立」へと追い込んでしまう原因になることも少なくありません。

そんな「孤立」を乗り越え、病気とより前向きに向き合うためのヒントを見つけることを目的に、北海道小児膠原病の会が4周年記念イベント『お医者さんのきもち、わたしのきもち』を開催しました。一般社団法人膠原病PR協会ミライも協力団体として参加したこのイベントでは、患者さん、ご家族、そして医療者が一堂に会し、それぞれの立場から「本音」を共有する貴重な機会となりました。

北海道小児膠原病の会 4周年イベント告知

このレポートでは、患者さんの孤立を乗り越える鍵として示された「患者力(エンパワーメント)」と「シェアド・ディシジョン・メイキング(SDM/共同意思決定)」に焦点を当て、イベントで得られた学びと、参加者の皆さんの熱意をお伝えします。

病気は誰のせいでもない。辛い時に「辛い」と言える勇気

イベントの冒頭では、北海道小児膠原病の会の顧問である小林一郎先生(市立美唄病院)から、心温まる開会挨拶がありました。

小林先生は、ステロイド治療が中心だった時代から膠原病の診療に携わってきた経験を振り返り、治療する側もされる側も、それぞれが多くの苦労を抱えてきたことを話されました。特に、小児期や思春期に病気になった患者さんが、「周囲と違う自分」を意識するあまり、病気やつらさを隠してしまう現状に触れ、「一番大切なのは、辛い時に『辛い』と言えること。その声を出す勇気です」と力強く語りかけました。

また、患者さんのご家族、特に両親に向けては、「病気は誰のせいでもありません」と繰り返し強調し、「責め合う必要はないんです。病気を抱えながらも希望を失わず、皆で支え合って未来をつくっていきましょう」と、会場全体を温かいメッセージで包み込みました。この言葉は、きっと多くの患者さんやご家族の心に響いたことでしょう。

医療者の視点から見える「コミュニケーションの壁」

イベントの第1部「聞く時間」では、まず佐藤泰征先生(北海道大学)による「お医者さんの気持ち」と題した講演がありました。

事前に実施されたアンケートでは、多くの参加者さんが「医師とのコミュニケーションは難しい」と感じていることが明らかになったそうです。その背景には、いくつか理由があると佐藤先生は指摘しました。

  1. 構造的・環境的要因: 診療時間の制約や専門医不足、電子カルテの入力作業など、医師が患者さんとじっくり話す時間を確保しにくい現実があること。
  2. 認識のズレ: 医師が病気の「医学的異常」に焦点を当てがちな一方で、患者さんは「生活全体」を見てほしいと感じる、この視点の違いがあること。
  3. 感情の壁: 患者さん側の遠慮や不安、そして医療者側の「こうあるべき」という思い込みや、多忙による燃え尽きといった感情的な壁があること。
  4. 言葉の壁: 専門用語や、病気に対する理解度の違いによる、言葉の壁があること。

これらの壁を完全に無くすことは難しいかもしれません。しかし、佐藤先生は「今、医師が病気のどの段階に向き合っているのかを患者さんが意識することが、対話を円滑にする」とアドバイスしました。例えば、病気の診断時、治療方針決定時、経過観察時など、それぞれの段階で医師が何に焦点を当てているかを理解するだけでも、コミュニケーションの質はきっと変わるはずです。

さらに、近年注目されている医療の重要な概念として「シェアド・ディシジョン・メイキング(SDM/共同意思決定)」が紹介されました。これは、医師が一方的に治療を決めるのではなく、患者さんの価値観や希望を尊重し、医師と患者さんが対等なパートナーとして、共に治療方針を考えていくプロセスのことです。自分の人生を自分で選択していく上で、とても大切な考え方ですね。

患者さんを主役にする「患者力」

続いて、行政書士であり医療ソーシャルワーカー(MSW)として21年の経験を持つ山田純一氏(ぴりかれら行政書士・社会福祉事務所代表)が、「患者力」について講演を行いました。

山田氏は、慢性疾患が増え、医療が高度化する現代において、患者さんが受け身のままでいると、かえって適切な医療につながりにくくなる現状を指摘しました。「患者力」とは、患者さんが治療の主役になる力であり、それを引き出す医療者の支援が相互に作用して高まるものだと説明されました。

患者力は、次の4つの要素から成り立っています。

  1. 情報理解力: 病気や治療に関する情報を正しく理解する力。
  2. 意思決定力: 自分の価値観に基づき、治療や生活に関する選択をする力。
  3. 自己管理力: 日常生活の中で、自身の病気を管理し、健康を維持する力。
  4. コミュニケーション力: 医師や医療スタッフ、家族、周囲の人々と円滑に意思疎通を図る力。

特に、「医師任せ」だったこれまでの姿勢から、医師と患者さんが相互理解を前提に、共に治療に取り組む「アドヒアランス」への転換が、QOL(生活の質)向上の鍵になると山田氏は語りました。単に指示に従うのではなく、自分も積極的に関わることで、より良い結果につながるということですね。

また、「医師は分析型で、感情を表現しないように見えるかもしれませんが、実は共感的な側面も持っているんです」という言葉は、多くの患者さんにとって新しい発見だったかもしれません。「困っていることを、感情も含めて率直に伝えることが、医師との関係性を深める第一歩になります」と、具体的なアドバイスも示されました。自分の気持ちを伝える勇気が、信頼関係を築く上でいかに大切か、改めて気づかされます。

自分のことは、自分で決めていい!

第2部「考える時間」では、一般社団法人膠原病PR協会ミライの代表理事である下條真矢さんを含む3名の膠原病患者さんと、北海道小児膠原病の会の代表であるさくま氏による座談会が行われました。

下條さんは、かつて主治医に全てを任せていた経験を振り返り、「病気と向き合うには、自分から話し、考える姿勢が必要だと気付いた」と率直な気持ちを語りました。病気を医師任せにするのではなく、自分自身が主体的に関わることの重要性を感じたのですね。

別の患者さんからは、「慢性疾患セルフマネジメント」との出会いをきっかけに、「病気があっても、自分の人生を自分で選んでいいんだ」と実感したという経験が共有されました。これは、病気によって諦めるのではなく、病気と共にどう生きていくかを自分で決めることの大切さを示しています。また、復職を経験した患者さんからは、「自分を守るために、伝え方を学んだ」という言葉もありました。病気がある中で社会生活を送る上で、自分の状況を適切に伝えるスキルがいかに重要かを感じさせます。

夢を共有するツール「マイレポート」

座談会の中では、北海道小児膠原病の会が作成したコミュニケーションツール「マイレポート」も紹介されました。

このツールは、単に病気に関する配慮事項を伝えるだけでなく、「やりたいこと」や「将来の希望」を言語化できる点が大きな特徴です。自分の夢や目標を具体的に書き出すことで、それを医療者や周囲の人々と共有しやすくなります。

「夢を伝えることで、治療は“我慢”ではなく“未来につながる選択”になる」。

この言葉が示すように、マイレポートはSDMを実践するための有効なツールとして、その価値が共有されました。自分の未来を自分で描き、それを周囲と共有することで、治療へのモチベーションも大きく変わるかもしれませんね。

北海道小児膠原病の会が作成したコミュニケーションツール「マイレポート」

「理解したら、優しくなれた」社会へ

このイベントを通じて、患者さんの主体的な姿勢と、医療者との協力が、病気による孤立を防ぎ、より良い医療と生活につながることが改めて示されました。病気を抱える皆さんが、もっと自分らしく生きるためのヒントがたくさん詰まっていたのではないでしょうか。

一般社団法人膠原病PR協会ミライは、膠原病の認知度を高める活動を通じて、患者さんが安心して自分の声を上げられる社会の実現を目指しています。今回のイベントで生まれた学びと対話が、誰もが「理解したら、優しくなれた」と言える社会への大きな一歩となることを願い、これからも活動を続けていくとのことです。

北海道小児膠原病の会代表、さくま氏からは、イベントを終えて次のようなコメントが寄せられました。

「日頃、会の交流会やラインオープンチャットでも、外来受診時の話題が上がります。医療者とのコミュニケーションによって、患者さんやご家族の望む日々に近づけたらと思っております。緊張もあると思いますが、『〇〇したい』『〇〇を叶えたい』という、治療の目標を医療者と共有できたならと思っています。

学校や職場での自己開示についても、患者さんだけが頑張るのは難しいことです。疾患があっても、なくても、誰でも得意なことも苦手なことも思うので、ちょっと想像力と思いやりを働かせて、居心地の良い環境、関係性がつくられたなら素敵なことだと思っています。今回のイベントが、その一助になれば幸いです。」

さくま氏のコメントからも、患者さんを取り巻く全ての人々が、少しの想像力と思いやりの気持ちを持つことで、より良い社会が築けるという温かいメッセージが伝わってきますね。

イベント協力団体について

一般社団法人膠原病PR協会ミライ
「これって膠原病かも?と言える社会を目指します」をミッションに、膠原病の認知度向上と早期診断の促進、患者さんのQOL向上を目的として、2025年7月3日に設立されました。膠原病の啓発及び普及、調査研究及び情報提供、患者・親族の交流コミュニティ運営、研修会・講演会開催など多岐にわたる活動を展開しています。
公式ウェブサイト:https://kougen-mirai.com/

北海道小児膠原病の会
小児膠原病を抱える子どもたちとその家族が、病気を正しく学び、安心して交流できる場を提供しています。札幌市まちづくり活動促進助成金の支援を受け、オンライン交流会や学習会、新千歳空港でのパネル展など、社会に向けた啓発活動にも取り組んでいます。
公式ウェブサイト:https://www.h-syonikogen.com/