はじめに:もしかして、あなたの腎臓もSOSを出してる?
「慢性腎臓病(CKD)」という言葉を聞いたことがありますか?もしかしたら、健康診断で「腎機能低下の疑い」を指摘されたことがあるかもしれませんね。現在、日本全体で約2,000万人もの人々が慢性腎臓病を抱えていると推計されており、まさに「新たな国民病」とも言われています。
この病気の怖いところは、初期にはほとんど自覚症状がないこと。そのため、気づかないうちに病気が進行してしまうケースが少なくありません。もし末期腎不全まで進行してしまうと、透析療法が必要になることもありますし、たとえ軽度であっても、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる合併症のリスクが高まってしまうことも指摘されています。
しかし、悲観することばかりではありません。実は今、慢性腎臓病の治療は大きな転換期を迎えています。新しい治療薬が登場したり、これまでの常識とは異なる生活習慣の考え方が注目されたりしているのです。
そんな「いま知っておくべき慢性腎臓病の『新常識』」を、日本腎臓学会のガイドライン改訂委員長を務めた丸山彰一氏(名古屋大学大学院教授)が、図版やイラストをふんだんに使ってわかりやすく解説したのが、NHK出版から2026年1月19日に発売された『別冊NHKきょうの健康 慢性腎臓病~食事と治療の新常識』です。
この一冊には、病気と向き合い、自分らしい生活を続けるためのヒントがぎゅっと詰まっています。この本の内容を参考に、あなたの腎臓を守るための具体的な一歩を踏み出してみませんか?

まずはここから!自分の腎臓の状態を知ろう
慢性腎臓病は自覚症状が少ないからこそ、まず自分の腎臓がどんな状態なのかを知ることが何よりも大切です。そのために役立つのが、健康診断で受ける「尿検査」と「血液検査」です。
腎臓の機能をチェックする上で特に重要なのは、「尿たんぱく」と「eGFR(推算糸球体濾過量)」という2つの数値です。
尿たんぱくって何?
尿たんぱくは、尿の中にたんぱく質がどのくらい出ているかを示す数値です。健康な腎臓は、血液中のたんぱく質を体外に出さないようにしっかりフィルターの役割を果たしています。しかし、腎臓に障害が起きると、このフィルター機能が低下して、本来尿に出ないはずのたんぱく質が漏れ出てきてしまうのです。
尿検査の結果で「マイナス」であれば正常ですが、「プラスマイナス」や「プラス(1+以上)」と出た場合は、腎臓に何らかの異常が起きている可能性があるので注意が必要です。
eGFRって何?
eGFRは、腎臓が血液をろ過する能力(腎機能)を数値で表したものです。これは血液検査でわかる「血清クレアチニン値」、年齢、性別などから計算されます。健康診断の結果表にeGFRの値が記載されていることもありますし、自分で簡単に計算できるツールもあります。
日本腎臓学会では、腎機能測定ツールを提供しています。年齢、性別、血清クレアチニン値を入力するだけでeGFRの値が表示されるので、ぜひ活用してみてください。
eGFRの判定基準は以下の通りです。
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90以上: 正常
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60~89: 正常~注意(軽度低下)
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60未満: 要注意(低下)

2つの結果を組み合わせて、自分の腎機能ステージをチェック!
尿たんぱくとeGFRの2つの数値を組み合わせることで、あなたの腎機能がどのステージにあるのかを判定できます。3か月以上異常が続く場合は、慢性腎臓病と診断される可能性があります。
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正常な人: 腎機能は大丈夫ですが、高血圧や糖尿病、肥満など、腎臓に負担をかける要因がある場合は「慢性腎臓病予備群」といえます。引き続き生活習慣に注意し、定期的な検査を続けましょう。
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軽度の人: 尿たんぱくが「±」でeGFRが60以上の場合は、1年だけなら様子を見てもよいとされていますが、2年以上続く場合はかかりつけ医を受診しましょう。eGFRが60未満の場合は、尿たんぱくが「−」でも腎臓に異常がある可能性が高いので、すぐに受診して詳しい検査を受けることが大切です。
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中等度・高度の人: 腎機能の低下が進んでいる状態です。すぐにかかりつけ医を受診し、治療を始める必要があります。必要に応じて専門医を紹介してもらい、適切な治療計画を立ててもらいましょう。

希望が見える!進化する治療薬と新常識
慢性腎臓病の治療は、以前に比べて大きく進化しています。特に注目されているのが、腎機能の保護に高い効果を示す新しい治療薬の登場です。
これまでの治療は、高血圧や糖尿病といった腎臓病の原因となる病気の治療が中心でしたが、今はそれに加えて、腎臓自体を保護する薬が使われるようになっています。これにより、腎機能の低下を緩やかにし、透析への移行を遅らせたり、心血管病のリスクを減らしたりすることが期待されています。
治療の進捗は「eGFRスロープ」という、eGFRの低下速度を見ることで評価されます。このスロープを緩やかにすることが、治療の大きな目標となります。
原因となる病気もしっかり治療!
慢性腎臓病の進行には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、高尿酸血症といった生活習慣病が深く関わっています。これらの病気がある場合は、それぞれの治療をしっかり行うことが腎臓を守る上でとても重要です。
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高血圧: 血圧を適切にコントロールすることで、腎臓への負担を減らします。
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糖尿病: 血糖値を適切に管理することが、腎臓の障害を防ぎます。特にSGLT2阻害薬など、腎保護効果も期待される新しい薬も登場しています。
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脂質異常症: LDLコレステロール値を下げることで、血管の健康を保ち、腎臓への影響を軽減します。
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高尿酸血症: 尿酸値を下げることで、痛風発作を防ぐだけでなく、腎臓への負担も減らします。
薬物療法中の「シックデイ」に注意!
薬を服用している方が風邪や胃腸炎などで体調を崩し、食事が十分に摂れない日を「シックデイ」と呼びます。シックデイの際は、普段飲んでいる薬の中には、一時的に中止した方が良いものもあります。自己判断せずに、必ずかかりつけ医や薬剤師に相談し、適切な対処法を知っておくことが大切です。
「おいしく無理なく」が合言葉!食事と生活習慣の新常識
「腎臓病の食事って、味気なくておいしくないんでしょ?」
そんなイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、ご安心ください!新しい考え方では、「おいしく食べて、無理なく腎臓を守る生活」が可能になってきています。食事療法は、我慢ばかりではなく、工夫次第で豊かなものになるのです。
減塩のコツ:1日1gからでも!
腎臓を守る上で、減塩はとても重要です。でも、いきなり大幅な減塩は難しいかもしれません。まずは「1日1gでも減らす」という意識から始めてみましょう。おいしく減塩するためのポイントはたくさんあります。
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だしや香辛料を活用: 塩分を減らしても、だしのうま味や唐辛子、コショウ、カレー粉、ハーブなどの香辛料で風味をアップさせることができます。
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酸味や香りをプラス: 酢、レモン、ゆずなどの酸味や、しょうが、にんにく、ネギ、パセリなどの香り野菜は、料理にアクセントを加えてくれます。
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調理法を工夫: 焼く、蒸す、揚げるなどの調理法は、煮るよりも調味料の使用量を抑えやすい傾向があります。
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加工食品や外食に注意: 加工食品には意外と多くの塩分が含まれています。外食の際は、薄味をオーダーしたり、汁物を残したりするなどの工夫も有効です。
エネルギーとたんぱく質の管理:食べ過ぎず、食べなさすぎず
腎臓病の食事では、エネルギー(カロリー)とたんぱく質の管理も大切です。昔はたんぱく質の制限が厳しかったイメージがあるかもしれませんが、今は「無理に減らしすぎない」という考え方が主流になりつつあります。
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適切なエネルギー量を摂る: 体重を維持するために、必要なエネルギー量をしっかり摂ることが重要です。ご飯やパン、麺類などの炭水化物、油を適切に利用しましょう。
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たんぱく質は必要な量を: たんぱく質は体の組織を作る大切な栄養素です。医師や管理栄養士と相談し、自分の腎機能のステージに合わせた適切な量を、1日3食に偏りなく摂ることが推奨されています。低たんぱく質食品を上手に活用するのも良い方法です。
献立のヒント:おいしい減塩レシピに挑戦!
毎日の献立を考えるのは大変ですが、工夫次第で減塩でも大満足の食事が楽しめます。例えば、書籍には以下のような献立例やレシピが紹介されています。
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主菜: ローストビーフ、鶏肉とかぼちゃのクリーム煮、さけのチーズパン粉焼き、鶏肉の治部煮風、揚げ焼き豆腐のきのこあん、厚揚げと豆苗のチャンプルー
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ご飯もの: たらのごまそぼろ丼、チキンキーマカレー
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麺類: たっぷり野菜のあんかけ焼きそば、そぼろそうめん
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副菜: キャベツの中華風ごまあえ、きのこの和風マリネ、きゅうりとみょうがの酢の物、カラフルきんぴら、きのこと野菜のマヨあえ、なすとピーマンの和風炒め、大根の含め煮、白菜のごまポンサラダ
これらのレシピでは、塩分を抑えながらも、素材の味や香りを活かし、調理法を工夫することで、しっかりとした満足感が得られるようになっています。
例えば、一例として「さけのチーズパン粉焼き」は、粉チーズとパン粉をまぶしてグリルで焼くことで、揚げなくてもサクサクとした食感と香ばしい風味を楽しめます。また、マヨネーズとトマトケチャップを鮭に塗ることで、ソースや塩をかけなくてもしっかりと味がつき、塩分を抑えることができます。
「鶏肉の治部煮風」では、鶏肉に片栗粉をまぶすことでうまみを閉じ込め、煮汁がよく絡んで味が濃く感じられます。わさびを添えることで味の変化も楽しめ、減塩でもおいしく食べられる工夫が凝らされています。


食事以外の生活習慣も大切に
食事だけでなく、日々の生活習慣全体を見直すことも腎臓を守る上でとても重要です。
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水分は摂取量を守り、お酒はほどほどに: 水分の摂りすぎや、逆に少なすぎも腎臓に負担をかけることがあります。医師から指示された水分摂取量を守りましょう。お酒は適量を楽しむ程度にとどめ、飲みすぎには注意が必要です。
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無理なく楽しい運動を続けよう: 適度な運動は、血圧や血糖値のコントロールにも役立ち、全身の健康に良い影響を与えます。ウォーキングや軽い体操など、無理なく続けられる運動を見つけて、習慣にしてみましょう。
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体重と血圧の測定を毎日の習慣に: 自分の体の状態を知るために、毎日の体重と血圧の測定は欠かせません。記録をつけることで、体調の変化にいち早く気づくことができます。
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〝腎臓によい〟!? ウワサのウソとホント: インターネットや人づてに聞く「腎臓に良い」という情報の中には、科学的根拠が乏しいものや、腎臓病の症状によってはかえって悪影響になるものもあります。必ず医師や専門家に相談し、正しい情報を得るようにしましょう。
もしもに備える:腎代替療法という選択肢
もし腎機能の低下がさらに進み、eGFRが30未満になった場合には、「腎代替療法」を検討することになります。これは、腎臓の働きを人工的に補う治療法で、主に以下の3つの選択肢があります。
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腎移植: 健康な腎臓を移植することで、腎臓の機能を根本的に回復させることを目指します。生体腎移植と献腎移植があります。
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腹膜透析: 自宅で、お腹の中の腹膜を使って血液をろ過する方法です。毎日少しずつ行い、自分のライフスタイルに合わせて治療時間を調整しやすいのが特徴です。
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血液透析: 医療機関で、機械を使って血液を体外でろ過する方法です。一般的に週に3回、数時間かけて行われます。
どの治療法もそれぞれメリットとデメリットがあり、患者さんの体の状態や生活スタイル、価値観によって最適な選択は異なります。医師や家族とよく話し合い、納得のいく選択をすることが大切です。
この一冊が、あなたの力に!
『別冊NHKきょうの健康 慢性腎臓病~食事と治療の新常識』は、名古屋大学大学院教授で、日本腎臓学会CKD診療ガイドライン改訂委員会の委員長も務められた丸山彰一先生が監修されています。長年の研究と臨床経験に基づいた、信頼できる情報が満載です。

商品情報
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書名: 別冊NHKきょうの健康 慢性腎臓病~食事と治療の新常識
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監修: 丸山彰一
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編: NHK出版
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出版社: NHK出版
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定価: 1,540円(税込)
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発売日: 2026年1月19日
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判型: B5判 並製
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ページ数: 96ページ(内カラー16ページ)
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ISBN: 978-4-14-794205-8
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おわりに:一人で抱え込まず、正しい知識で前向きに
慢性腎臓病と診断されると、不安な気持ちになるのは当然のことです。しかし、現代の医療は日々進化しており、新しい治療法や食事の考え方によって、病気と上手に付き合いながら、これまでと変わらない豊かな生活を送ることが可能になってきています。
大切なのは、一人で抱え込まずに、正しい知識を得ること。そして、医師や管理栄養士といった専門家と協力しながら、自分に合った治療や生活習慣を実践していくことです。
『別冊NHKきょうの健康 慢性腎臓病~食事と治療の新常識』は、そんなあなたの心強い味方になってくれるでしょう。この本をきっかけに、あなたの腎臓を大切にする新しい一歩を踏み出してみてください。きっと、明るい未来が待っているはずです。
