医師の「忙しい!」を軽減する、新しい取り組み
そんな長年の課題に、いよいよAIの力が登場しました!
独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)北海道病院では、株式会社プレシジョン、株式会社シーエスアイ、NTTドコモビジネス株式会社の4者が協力し、厚生労働省の事業に採択された画期的な取り組みを開始しました。それは、診察室での会話をAIが聞き取り、自動でカルテの下書きを作成するという「AIカルテ下書き実証」です。この取り組みは、「国内初」となるスマートフォンとAI音声認識、そして電子カルテ連携を組み合わせたものです。
なぜ、今AIが必要なの?
今の医療現場では、医師の先生方の長時間労働が深刻な問題となっています。特に、カルテの入力などの記録業務は、診察時間の多くを占め、大きな負担になっていると言われています。JCHO北海道病院では、1日に平均約620名もの患者さんが外来を受診しており、そのカルテを24時間以内に記録しなければなりません。想像するだけでも大変な作業ですよね。
この実証は、そんな医師の先生方の記録業務の負担を減らし、その分、患者さんと直接向き合って対話する時間を増やすことを目指しています。これによって、医療の質が向上し、私たち患者の満足度も高まることが期待されています。

医師が目指すべき診療の姿
どんな仕組み?AIカルテ下書きのすごい点
今回の取り組みでは、診察室での会話を記録するのに、なんと「スマートフォン」が使われます。このスマートフォンで音声が入力されると、病院内のセキュアな環境に設置されたAI音声認識システムがその会話をテキストに変換します。さらに、このテキストを院内にあるAIサーバーが解析して、カルテの下書き(SOAP形式)を自動で作成してくれるんです。

話すだけでカルテ下書きを生成する医療特化の音声認識ソリューション
この下書きは、シーエスアイが提供する電子カルテシステム「MI・RA・Is V(ミライズ ファイブ)」に簡単に取り込むことができます。全ての処理が病院のネットワーク内で完結するため、大切な医療情報が外部に漏れる心配もありません。
AI音声認識システム「今日のAI音声認識」って?
このシステムの心臓部となるのが、プレシジョンが開発した医療に特化したAI音声認識システム「今日のAI音声認識」です。医師と患者さんの会話を聞き取り、カルテの下書きを自動で生成してくれます。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」で培われた技術が活用されており、医療用語なども高精度で認識できるのが特徴です。

特徴的な機能
スマートフォンが診察室を変える
NTTドコモビジネスが提供するスマートフォンが、診察室での音声入力端末として活躍します。これにより、医師は場所を選ばずに診療記録を作成できるようになり、より柔軟な医療提供が可能になります。セキュリティも万全で、安心して使える環境が整えられています。

システム構成図
私たち患者にどんな良いことがあるの?
この取り組みは、医師の先生方だけでなく、私たち患者にとっても嬉しい効果がたくさん期待されています。
1. 先生ともっと話せる!対話中心の診察へ
一番期待されるのは、医師の先生が私たち患者の顔を見て、じっくり話を聞いてくれる時間が増えることです。カルテ入力の負担が減ることで、先生は診察中もパソコン画面ではなく、私たちの方を向いて話してくれるようになるでしょう。
実際に、別の医療機関で同様のAI音声認識システムを使ったところ、再診患者さん50名の診察時間が20%以上も短縮されたというデータもあります。これは、診察室に入ってから次の患者さんが入るまでの時間が、平均で約2分半も短くなったことを意味します。この短縮された時間が、きっと私たちとの対話に充てられるはずです。不安なこと、気になること、些細なことでも、もっと気軽に話せるようになるかもしれません。
2. 待ち時間が短くなるかも!
医師の記録業務が効率化されれば、一人ひとりの患者さんへの対応がスムーズになり、結果として病院全体の待ち時間も短くなることが期待されます。病院での待ち時間は、体調が悪い時には特に辛いもの。これが少しでも減るとなれば、本当に助かりますよね。
3. どこでも安心の医療が受けられるように
スマートフォンを使った音声認識は、診察室だけでなく、将来的には往診や訪問診療など、様々な場所での医療提供をサポートする可能性を秘めています。場所を選ばない医療DXが進むことで、より多くの人が必要な医療を受けやすくなるかもしれません。
4. 大切な個人情報はしっかり守られる
「AIに話した内容が外に漏れたらどうしよう…」と心配になる方もいるかもしれません。でもご安心ください!今回の取り組みでは、音声データを含む全ての診療情報の処理が、病院内のセキュアな環境で完結します。外部のクラウドサービスに送られることなく、患者さんの個人情報が厳重に保護されるため、安心して診察を受けられます。
未来の医療は、もっと私たちに寄り添う
JCHO北海道病院の古家 乾院長は、この取り組みについて「AIが医療情報の世界でデジタルツイン(現実をコンピュータ上で再現する技術)としての役割を果たせる」と大きな期待を寄せています。そして、「1台のスマートフォンが、医療者と患者の間の自然なコミュニケーションを保ちつつ、正確な診療記録、共同意思決定(SDM)、人生会議(ACP)の記録などをエスコートできる日が来る」と語っています。
この実証を通じて得られた知見は、JCHO北海道病院だけでなく、将来的には全国の医療機関へも広がり、看護記録やリハビリ記録など、他の医療業務にも展開されることが検討されています。
私たちが安心して、そして納得して医療を受けられる未来。医師の先生方が、もっと笑顔で私たちと向き合える未来。今回のAIカルテ下書き実証は、そんな未来への大きな一歩となることでしょう。病気で不安を抱えるすべての人にとって、この新しい取り組みが希望の光となることを願ってやみません。
参考情報
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厚生労働省「ICT機器を活用した勤務環境改善の先駆的取組を行うモデル医療機関調査支援事業」に関する情報はこちら:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_56842.html
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医療情報保護に関する厚生労働省のガイドラインはこちら:https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000516275_00006.html
