研究のポイント

  • 栄養リスク群において口腔ケアの拒否が見られる割合が高く(栄養リスク群50%、栄養正常群16.2%)、年齢や性別などの要因を調整した後も、口腔ケアの拒否は栄養リスクと独立して関連することが明らかになりました(オッズ比9.23、95%CI 1.10–77.33)。

  • 舌苔指標(TCI)においては拒否の有無による差は見られず、口腔清掃状態そのものよりも「拒否」という行動が栄養リスクの重要なサインとなり得ることが示唆されています。

研究方法

本研究は、2025年2月から3月にかけて熊本県の障害者支援施設に入所する知的障害のある成人55人(男性56.4%、年齢中央値57歳)を対象に実施されました。

口腔ケア拒否は、過去1か月のケア記録に基づき、スタッフ2名以上の合意により、口腔ケア時に抵抗や不快の表出があった場合に定義されました。栄養評価にはMNA-SF(Mini Nutritional Assessment-Short Form)が用いられ、「正常(12–14点)」と「リスク/低栄養(0–11点)」に分類されました。その他、日常生活動作能力(FIM、Barthel Index)、体組成、舌苔(TCI)なども評価項目に含まれました。

研究結果

栄養リスク群(n=24)では50%(12/24)に口腔ケア拒否が見られたのに対し、栄養正常群(n=31)では16.2%(5/31)でした。二項ロジスティック回帰分析(年齢・性別等を調整)により、口腔ケア拒否が栄養リスクと有意に関連し、オッズ比は9.23(95%CI 1.10–77.33)であることが示されました。

社会的意義と今後の展望

介護・支援の現場では、利用者が歯みがきを嫌がったり、口を開けなかったりするなどの拒否行動が日常的に経験されます。本研究は、これらの拒否行動が単なるケア上の困難に留まらず、栄養リスクを早期に認識するための重要なサインとなり得ることを示唆しています。

拒否行動が見られた際には、口腔ケアの手技を工夫するだけでなく、MNA-SFなどの栄養スクリーニングを実施し、多職種連携を通じて適切な対応につなげることが期待されます。

泉繭依講師

泉繭依講師は、「現場でよくある『歯みがきを嫌がる』『口を開けない』といった拒否が、栄養リスクと結び付く可能性を示しました。清掃手技の工夫に加え、拒否が見られたら体調・痛み・食事量の変化にも目を向け、MNA-SFなどの栄養スクリーニングや多職種連携につなげてほしいです」とコメントしています。

用語解説

  • MNA-SF: 低栄養リスクを評価するための6項目の簡易スクリーニングツール(0–14点)。

  • TCI: 舌の汚れ(舌苔)を0–18点で評価する指標。

論文情報

  • 題名: Association between oral-care refusal and malnutrition risk among adults with intellectual disabilities: a cross-sectional study in two Japanese residential facilities.

  • 著者: Maya Izumi, Seijun Ganaha, Sumio Akifusa

  • 論文雑誌: Special Care in Dentistry誌

  • DOI: https://doi.org/10.1111/scd.70135

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C)24K13245の助成を受けて実施されました。

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