乳がん治療、患者さんの「知りたい」と「避けたい」

今回の調査では、乳がんの診断を受けた患者さんの約半数(44.4%)が、「がんの性質やステージによって治療法が変わることを全く知らなかった」と回答しています。診断直後は、治療に関する具体的なイメージがなかなか持てないのが実情なのかもしれません。

ある事柄に対する認識度を円グラフで示したもの

そして、患者さんの約3人に2人(65.6%)が「最も避けたい治療は化学療法」と感じていました。副作用への懸念など、化学療法に対する不安や抵抗感が大きいことがうかがえます。治療を選ぶ上で、このような不安は大きな負担となりますよね。

最も避けたい治療に関するアンケート結果を示す棒グラフ

早期発見が、治療の選択肢を広げる第一歩

乳がん治療の話題に入る前に、まずお伝えしたいのが「早期発見」の大切さです。今回の調査でも、定期的に乳がん検診を受けている人は、そうでない人に比べて乳がんが検診で見つかる割合が高く(60.5% vs 28.7%)、より早いステージ(0期やI期)で発見される傾向があることが分かりました。

乳がんの発見方法に関する円グラフ

上の円グラフは、乳がんの発見方法を示しています。半数以上の方が「自身で」発見していますが、「乳がん検診で」発見する方も多く、検診の重要性がわかります。

乳がん検診の受診状況別に、乳がんの発見経緯と診断ステージを示すグラフ

上のグラフを見ると、毎年定期的に検診を受けている方は、乳がん検診で発見される割合が61.6%と高く、診断時のステージも0期やI期といった早期で見つかることが多いのが分かります。早期発見は、治療の選択肢を増やすだけでなく、体への負担を減らすことにも繋がります。

また、「ブレスト・アウェアネス(注2)」という言葉をご存知でしょうか?これは「自分の乳房の状態に日頃から関心を持ち、乳房を意識する生活習慣」のことです。具体的には、

  • 自分の乳房の状態を知る

  • 気をつけなければならない乳房の変化(しこりや血性の乳頭分泌など)を知る

  • 変化に気づいたらすぐに医師に相談する

  • 40歳になったら定期的に乳がん検診を受ける

という4つの要素から成り立っています。

残念ながら、今回の調査ではブレスト・アウェアネスの認知度は15.0%とまだ低く、日頃から実践している人も多くはありませんでした。しかし、2年に一度の乳がん検診とブレスト・アウェアネスを組み合わせることで、さらに早期に乳がんを発見できる可能性が高まります。日頃からご自身の体を意識することは、とても大切ですね。

多遺伝子検査が「納得の治療選択」を後押し

「自分に合った治療を選びたい」という患者さんの強い想いに応える手段の一つが、「多遺伝子検査(注1)」です。この検査は、診断や手術で切除したがん組織中の複数の遺伝子を調べることで、

  • がんが「どの程度再発しやすいか」

  • ホルモン療法に加えて「化学療法(いわゆる、抗がん剤)を併用すると効果があるか」

などを予測し、切除手術後の治療選択の判断材料となります。

調査では、乳がん患者さんの82.5%が多遺伝子検査を認知していることが分かりました。多くの方が、この検査の目的を「ホルモン療法に加えて化学療法の上乗せ効果が期待できるかを予測する検査」(63.1%)や「乳がんの再発リスクを予測する検査」(55.7%)と理解しており、治療方針を考える上で役立つ検査として広く認識されているようです。

多遺伝子検査の認知度と、その情報源に関する調査結果

上のグラフから、多遺伝子検査を知ったきっかけとして「乳がん経験者(患者会やSNSコミュニティ、YouTube、ブログ等含む)」が41.5%と最も多く、患者さん同士の情報交換が活発であることがうかがえます。医師からの情報(20.6%)やウェブサイト(19.5%)も重要な情報源となっています。

多遺伝子検査がどのような検査と理解されているかを示すアンケート結果の棒グラフ

多遺伝子検査と聞くと、「BRCA遺伝子検査(注3)」と混同される方もいるかもしれませんが、今回の調査では混同が少なく、多遺伝子検査への理解度が高いことが明らかになりました。

  • BRCA遺伝子検査:遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)かどうかを調べる検査で、遺伝的な要因が関与しているかを調べます。

  • 多遺伝子検査:がん組織の遺伝子を調べ、再発リスクや化学療法の効果予測を通じて、治療方針の決定をサポートする検査です。

検査を受けた患者さんの98.7%が「受けてよかった」と回答!

多遺伝子検査を受けた患者さんのほぼ全員(98.7%)が「受けてよかった」と回答している点には、注目すべきです。この高い満足度は、検査が患者さんに大きな「納得感」と「安心感」をもたらしていることを示しています。

多遺伝子検査の満足度を示す円グラフ

検査を受けた理由としては、「客観的な数値をもとに自分に合った治療を考えたかったから」(48.8%)が最も多く、次いで「化学療法を受けるかどうか迷っていたから」(34.1%)が挙げられました。この結果は、患者さんが漠然とした不安の中で治療を決めるのではなく、科学的な根拠に基づいて納得したいと強く願っていることを示しています。

多遺伝子検査を受けると決めた主な理由を示す棒グラフ

自由回答には「自分の再発リスクや抗がん剤の効果予測を知ることができたので納得して治療に臨めた」「抗がん剤を受けない選択ができた」といった声が寄せられています。多遺伝子検査は、患者さんが治療の方向性を自分で選び取るための、大切な道しるべとなっているのですね。

情報提供の壁と「共同意思決定(SDM)」の重要性

多遺伝子検査は多くの患者さんに「納得」をもたらしていますが、課題も見えてきました。

多遺伝子検査の対象となる患者さん(注4:ホルモン受容体陽性でHER2陰性、リンパ節転移がないか1~3個の早期浸潤性乳がん患者)165名のうち、実際に検査を受けたのは約半数(48.5%)にとどまりました。検査を受けなかった75名のうち、約半数(45.3%)が「医師からの説明や紹介の機会がなかった」ことを理由に挙げています。また、「説明はあったが、検査を勧められなかった」という回答も20.0%ありました。

2023年9月以降に乳がんと診断された患者360名を対象とした多遺伝子検査の実施状況フローチャート

上のフローチャートは、乳がん診断後の多遺伝子検査の実施状況を示しています。保険適用対象の患者さんでも、約半数が検査を受けていない現状が分かります。

医師からの説明の有無の円グラフ

上の円グラフは、多遺伝子検査の対象患者さんにおける「医師からの説明の有無」を表しています。「説明を受けていない」と回答した方が41.2%いることは、情報提供の機会の重要性を示唆しています。

多遺伝子検査を受けないと決めた理由を尋ねたアンケート結果

この結果は、客観的な治療選択の根拠となる情報があっても、それが患者さんに「伝えられる機会」がなければ、安心や納得には繋がらないという現実を浮き彫りにしています。多遺伝子検査は、治療の選択肢を広げる大切なツールですが、その情報が患者さんに行き届いていないケースがあるのは、とてももったいないことですよね。

さらに、多遺伝子検査の結果、「化学療法の上乗せ効果が小さく、実施が推奨されなかった」とされた患者さんの25.0%で、経口ではあるものの化学療法が実施されていたことも確認されました。これは、検査で得られた情報が必ずしも治療方針に十分に反映されていない可能性を示唆しています。

化学療法の上乗せ効果の度合いに応じた治療推奨と実際の治療選択の割合を示す棒グラフ

ここで重要になるのが、「SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング; 共同意思決定)」という考え方です。SDMとは、医師と患者さんが医療的な情報や、患者さんの価値観、ライフスタイルなどを共有しながら治療方針を話し合い、その決定を一緒に行うプロセスです。

今回の調査では、SDMという言葉を知っている患者さんはわずか4.2%でしたが、SDMの意味を説明した上で「乳がんの治療を決定する際にSDMがどの程度できたと感じたか」を尋ねたところ、62.5%の患者さんが「十分できた」または「ある程度できた」と回答しました。これは、SDMの概念が浸透すれば、より多くの患者さんが納得感を持って治療に臨める可能性を示しています。

SDM(Shared Decision Making)について、その内容を説明した後に実施できたかを聞いた調査結果を示すグラフ

SDMを深めることで、多遺伝子検査で得られる情報を最大限に活用し、患者さんが安心して最適な治療を選択できるようになります。医師と患者さんがパートナーとして、共に治療の道を歩むことが、これからの乳がん治療の理想の形と言えるでしょう。

専門家からの視点と、これからの乳がん治療

聖路加国際病院 乳腺外科部長の吉田 敦 先生は、今回の調査結果について「実臨床での感覚と一致した納得いくものであった」とコメントしています。

特に、多遺伝子検査の結果を踏まえて、不要な化学療法を減らせることの意義は非常に大きいとされています。患者さんにとって、不要な化学療法を安心して避けられる有用なツールであり、再発リスクが高い場合には、化学療法の必要性を患者さんに分かりやすく説明し、前向きに治療を受けてもらうことにも繋がるとのことです。

一方で、乳腺外科がない病院では多遺伝子検査について説明すらされていない現状や、保険診療の3割負担で約13万円という費用負担が患者さんにとって大きいことは課題であるとも指摘しています。

あなたの「納得」が、治療の力になる

今回の調査から、乳がん治療において患者さんが「納得して治療を選びたい」という強い想いを持っていること、そして多遺伝子検査がその「納得」をもたらす大きな可能性を秘めていることが分かりました。

しかし、まだすべての患者さんに適切な情報が行き届いているわけではありません。患者さん自身が積極的に情報を求め、医師と密にコミュニケーションを取り、SDMを通じて納得のいく治療選択をしていくことが、何よりも大切です。

エグザクトサイエンス株式会社は、患者さんが最先端のがん診断検査をより身近に感じ、早期発見から治療選択までのあらゆる段階で「納得」と「安心」をもって治療に臨める医療の実現を目指しています。株式会社リサ・サーナをはじめ、患者団体の皆さんと連携しながら、「患者さんの声」と科学的根拠を両軸に、患者さんの生活に意義ある変化をもたらすために努力を続けています。

適切な情報にアクセスできる環境が広がることは、患者さんが自分に合った治療を納得して選択し、検診や予防に積極的に参加していく上で不可欠です。私たち一人ひとりが、自分の体と向き合い、積極的に情報を得る姿勢を持つことが、より良い医療と社会を築く第一歩となるでしょう。

もしあなたが乳がん治療について悩んでいるなら、ぜひ今回ご紹介した多遺伝子検査やSDMについて、医師に相談してみてください。そして、あなた自身の「納得」を大切に、治療の道を歩んでいってほしいと願っています。

参考情報