世界的権威誌『Neurology』に掲載されたことの大きな意味
『Neurology』は、米国神経学会(American Academy of Neurology, AAN)が発行する、神経学分野で最も影響力のある医学雑誌の一つです。世界中の神経内科医や研究者が最新の知見を学び、治療方針を検討する際に参照する、まさに「神経学のバイブル」とも言える存在です。このような権威ある雑誌の、特に教育的な示唆を与える「Teaching NeuroImages」というセクションに論文が掲載されたことは、今回発表されたリハビリテーション治療手法が、単なる対症療法ではなく、脳科学的な裏付けを持った治療法として国際的な医学界で認められるための一歩と捉えられています。
原正彦氏も、「本論文が米国神経学会の教育コンテンツとして掲載されたことは、我々が提唱するリハビリテーション治療手法が単なる対症療法ではなく、脳科学的な裏付けを持った治療法として国際的な医学界で認められるための重要な一歩であると考えています。現場で奮闘する医師や療法士の先生方、そして回復を諦めない患者やそのご家族にとって、少しでも希望となる科学的エビデンスになれば幸いです。」とコメントを寄せています。この言葉は、まさに回復を願う多くの人々にとって、光となることでしょう。
脳卒中後の「プラトー」を乗り越えるVRリハビリテーション
この研究で注目されているのは、mediVRが独自に開発した「体性認知協調療法(Somato-Cognitive Coordination Therapy, SCCT)」と呼ばれるVRリハビリテーションです。これは、リハビリテーション用医療機器「mediVRカグラ」を用いて行われます。
「体性認知協調療法(SCCT)」とは?
体性認知協調療法は、身体の感覚(体性)と脳の認知機能(認知)を同時に刺激し、協調させることで、脳の神経ネットワークの再構築を促すことを目指す治療法です。
従来の脳卒中リハビリテーションでは、発症から時間が経つと回復が難しいとされてきました。特に、発症から5ヶ月が経過し、標準的なリハビリでは改善が見られなくなった重度の脳卒中後片麻痺患者さんにとって、「プラトー」は避けられないものと考えられていたのです。
しかし、本研究では、そのような「回復の停滞期」にある患者さんに対し、mediVRカグラを用いた体性認知協調療法を3週間実施したところ、驚くべき結果が確認されました。
麻痺した手が再び動き出す奇跡
治療を受けた患者さんでは、臨床的な運動機能の改善が見られ、なんと麻痺した手が再び動き出す(随意的運動の出現)レベルまで改善したのです。これは、回復が難しいとされてきた時期での改善であり、まさに「奇跡」とも言える結果です。
そして、この劇的な改善の裏側で、脳内では何が起きていたのでしょうか?
MRI画像解析で「脳の再構築」を可視化
本研究の最も画期的な点は、MRI画像解析の一種である「拡散テンソルトラクトグラフィー(Diffusion Tensor Tractography, DTT)」という技術を用いて、脳内の運動神経回路が再構築される過程を可視化したことです。DTTは、脳の白質にある神経線維の走行を画像化する技術で、脳の「配線図」を詳細に描き出すことができます。

この解析によって、損傷した脳の神経ネットワークが変化し、運動に関連する経路が再編成(reorganization)される様子が観察されました。具体的には、脳内で次のようなダイナミックな変化が起きていたことが明らかになったのです。
脳内で起きた皮質からの運動下降路のシフトと多面的な再構築
- 皮質からの運動下降路のシフト:損傷した側において、運動指令を出す源が、脳の頭頂葉後部から補足運動野、そして運動前野へと「前方へシフト」していく過程が確認されました。これは、脳が損傷した部位の機能を補うために、別の領域が役割を担うようになったことを示唆しています。
- 多面的な再構築:同時に、損傷していない側の神経経路や、小脳との結合が強化されるなど、脳全体にわたってダイナミックな変化が生じていました。さらに、左右の脳をつなぐ脳梁線維の一時的な変動も見られ、これらの変化が、患者さんの臨床的な回復(Brunnstrom Stage IIからIIIへの改善)と密接に関連していることが認められました。
この知見は、一症例の報告ではあるものの、適切な感覚運動入力(Somato-Cognitive Coordination)が、慢性期に近い段階でも「神経可塑性」を新たに誘導しうることを示唆する画像的なエビデンスです。神経可塑性とは、脳が経験や学習に応じてその構造や機能を変化させる能力のこと。この能力が、回復の停滞期にある患者さんでも引き出される可能性がある、という希望のメッセージを私たちに投げかけています。
mediVRでは、他の疾患や他の患者さんでも同様の脳の変化を画像で捉えた症例を複数経験しており、今後もさらに高いエビデンスレベルの報告を行うべく、追加検証を進めていくとのことです。
mediVRカグラとは?
「mediVRカグラ」は、この体性認知協調療法を行う際に活用されるリハビリテーション用訓練装置です。外部動力を使用せず、診断治療に有用な測定値や課題達成度を評価するために用いられます。椅子に座ったまま左右交互に腕を伸ばすといった運動を通じて、運動学習を促すことを目的としています。

VR技術を活用することで、患者さんはまるでゲームを楽しんでいるかのように、集中してリハビリに取り組むことができます。単調になりがちなリハビリテーションに「楽しさ」と「達成感」をもたらすことで、継続意欲を高め、より効果的な回復をサポートする可能性を秘めていると言えるでしょう。
株式会社mediVRの挑戦と社会貢献
株式会社mediVRは、2016年に循環器内科医の原正彦氏によって大阪大学発ベンチャーとして創業されました。原氏は、脳梗塞や脳出血後に後遺症が残り、自宅に帰れなくなってしまった多くの患者さんを目の当たりにする中で、「リハビリにVRを取り入れることで改善できないだろうか」という着想を得て、mediVRカグラを開発しました。
その革新性は高く評価され、2018年には経済産業省が主催するジャパンヘルスケアビジネスコンテストで最優秀賞を受賞し、J-Startupにも選出されています。2019年3月からは全国の大学、リハビリテーション病院、介護付き有料老人ホーム、デイケア施設などに向けて販売を開始し、現在では165を超える施設で累計約34万セッションもの治療が行われています。
株式会社mediVRは、リハビリテーション用医療機器の製造・販売を通じて、多くの患者さんの回復を支援しています。さらに、社会貢献活動にも積極的に取り組んでおり、難病の子どもたちに疾患に応じて低額でリハビリを提供しています。
この素晴らしい取り組みは、寄付によって支えられています。もしご興味があれば、以下のページで詳細をご覧いただけます。

未来への希望、そして諦めないことの大切さ
今回の研究成果は、脳卒中後のリハビリテーションに新たな希望の光を灯すものです。これまで「もう無理だ」と諦めかけていた方々にとって、「回復の可能性はまだ残されている」という力強いメッセージとなるでしょう。
VR技術を活用したリハビリテーションは、私たちの脳が持つ「神経可塑性」という驚くべき能力を最大限に引き出し、新たな回復の道を切り開くかもしれません。病気で困っているすべての方々に、この研究がもたらす希望が届くことを心から願っています。
今回の論文の詳細はこちらからご覧いただけます。
Longitudinal motor pathway reorganization after hemorrhagic stroke on diffusion tensor tractography
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株式会社mediVR 公式サイト
