フィットネスって、もはや「からだづくり」だけじゃない!
「フィットネス」と聞くと、ジムで汗を流す姿を想像するかもしれませんが、実はもっと広範な意味を持っています。健康寿命の延伸や疾病予防への関心が高まる中で、フィットネスは単なる「からだづくり」の運動を超え、トレーニング機器や補助具、測定センサー、施設管理システム、データ活用、そして健康とスポーツの科学的関係性といった、幅広い技術とサービス領域をカバーする分野へと進化しています。
国もこの動きを後押ししています。厚生労働省は2024年1月に「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」を公表し、初めて週2〜3日の筋力トレーニングを含む定期的な運動を推奨事項として明記しました。また、スポーツ庁は従業員のスポーツ活動推進に積極的な企業を「スポーツエールカンパニー」として認定しており、健康経営の核としてもフィットネスが重視されています。
スマートウォッチやフィットネストラッカーのようなウェアラブルセンサー技術の普及は、私たちの日常的なトレーニングデータ管理に革命をもたらしました。フィットネス施設でも、24時間型・無人型ジムの拡大やオンラインフィットネスの台頭など、DX化が進行しています。IoTセンサーによるデータ収集基盤の整備、AIを活用したトレーニング最適化、施設管理システムのDX化など、技術革新の余地がまだまだ大きい分野なのです。
フィットネス関連技術の最新動向を深掘り
アスタミューゼ株式会社は、フィットネスに関する特許と研究プロジェクトのデータを分析し、直近の動向をレポートとして紹介しています。
特許出願と研究投資(グラント)の推移
フィットネス関連の特許出願数は、2015年から2021年にかけて増加し、2021年には2015年の約1.7倍になりました。しかし、2021年をピークにその後は伸び悩んでいます。一方、研究プロジェクトへの投資額(グラント)は、2024年まで一定額の投資が見られます。これは、既存のフィットネス技術が成熟しつつある一方で、次世代技術への研究開発投資は継続していることを示唆しています。

研究投資を牽引する国々
グラント投資の国別動向を見ると、アメリカが圧倒的に多く、近年も増加し続けており、今後もこの領域の研究を牽引していくでしょう。他の国々はアメリカとは異なり横ばいですが、日本はその中でも投資額が多く、継続した投資が行われています。

未来を予測するキーワード分析
フィットネス領域の文献に含まれる特徴的なキーワードを抽出し、年次推移を分析する「未来推定」分析も行われました。これにより、近年注目されている技術要素や、これから脚光を浴びるであろう要素技術の流れを可視化できます。
特許のキーワード分析
特許のキーワード分析では、「BFRT(血流制限トレーニング)」、「resistance-training(レジスタンストレーニング機器)」、「ewot(酸素強化トレーニング)」、「aerobic(有酸素運動)」といった運動形式に関するワードや、「muscle-sensing(筋肉センシング)」、「multiparameteric(多パラメータ)」のようなセンシングに関するワードが増加傾向にあります。これは、多様な運動形式、運動機器や補助具、および運動モニタリングの発展がうかがえるものです。
特に注目すべきは、「avatar-incentive(アバター動機付けシステム)」、「leaderboard(ランキングシステム)」といったゲームフィケーションやモチベーションに関する用語が少数ながら増加している点です。運動を継続するモチベーションの維持は、病気を持つ方にとって特に重要ですよね。さらに、「intervation(介入研究)」、「sarcopenia(サルコペニア)」、「obesity(肥満)」、「farailty(フレイル)」のように、特定疾患の研究に関するキーワードも見られます。特に「sarcopenia(サルコペニア)」は、加齢や疾患により筋肉量・筋力が低下する病気であり、その出現割合が急上昇しています。これは、病気や加齢による身体機能の低下にフィットネスがどう貢献できるか、という研究が盛んになっている証拠と言えるでしょう。

グラントのキーワード分析
グラントのキーワード分析では、「hiit(高強度インターバルトレーニング)」、「aerobic-resistance(有酸素+抵抗運動複合)」のような効率的なトレーニングに関するワードや、「wearable(ウェアラブル)」、「esteps(電子歩数計測)」のようなモニタリング関連の用語が見られます。特許とは異なり、特定の病気に関するワードは減少していますが、「myokine(マイオカイン)」、「exerkine(エクサカイン)」、「cgcn5l1(ミトコンドリア代謝関連遺伝子)」、「gpld1(脳機能改善マイオカイン)」といった運動に関連した成分や遺伝子に関するワードが多数出現しています。「マイオカイン」や「エクサカイン」は、運動したときに放出されるシグナル分子やホルモンであり、これらの運動応答性物質に関する研究が注目されていることがわかります。これは、運動が私たちの体にどのような良い影響を与えるのか、そのメカニズムを深く理解しようとする動きと言えるでしょう。

病気と向き合う未来へ:注目技術とその応用
特許およびグラントの分析結果から、フィットネス技術がどのように発展していくかのロードマップが見えてきます。

短期的な展望(現在〜近い将来)
直近では、ウェアラブルを含むスマートデバイスや、AIを活用したデジタル技術、そしてスポーツに特化したトレーニングが発展していくでしょう。経済産業省も2025年4月に「これからの健康経営について」を公表し、ウェアラブル機器などで取得したバイタル・ライフログデータをPHR(パーソナルヘルスレコード)として健康管理に活用する取り組みを政策的に推進しています。これは、病気を抱える方々が日々の体調変化をより簡単に把握し、適切な健康管理を行う上で非常に役立つはずです。
中期的な展望(2026年〜2030年代)
中期にかけては、機能的トレーニングの発展や、運動モチベーションの改善、そして肥満や血管関連疾患の解決に向けた技術が進むでしょう。例えば、ゲームのような要素を取り入れて運動の継続を促したり、病気による身体機能の低下を防ぐための効果的なトレーニング方法が確立されたりするかもしれません。
長期的な展望(2040年代以降)
さらに長期では、運動時に生成される物質(エクサカインなど)と運動の関連性が解明され、より高度で効率的なトレーニングや、サルコペニアなどの加齢対策、高齢者向けの社会課題解決に向けた技術が発展していくことが予想されます。運動が脳を守るメカニズムの解明や、運動による病気の予防・改善効果が科学的に裏付けられることで、病気を持つ人々にとって、よりパーソナライズされた、安全で効果的な運動療法が提供されるようになるかもしれません。
病気とフィットネス技術の具体的な接点:事例紹介
これらのキーワードをもとに、注目の特許と研究プロジェクト(グラント)の事例を見てみましょう。これらの技術が、病気で困っている人々の生活にどのように役立つか、想像してみてください。
スマートフィットネス機器・デバイスの進化
特許事例1:運動中の筋電図信号から個人に最適な運動・食事を提案
- 概要: 運動中に体表から取得した筋電図(EMG)信号を多次元に変換・解析し、筋肉の動きの複雑さをスコア化。そのスコアをもとに、個人に適した運動方法と食事メニューを自動提案する機器です。
この技術は、病気や体の状態によって運動能力が異なる方にとって、無理なく、かつ効果的に運動を続けるための強力なサポートとなるでしょう。専門家がいなくても、自分に合った運動や食事のプランを立てられるようになるかもしれませんね。
デジタルコーチング・ゲーミフィケーションで楽しく運動!
特許事例2:ARグラスでアバターが運動指導、反復回数も自動カウント
- 概要: ARグラス搭載のセンサーとカメラでユーザーの動作や器具をリアルタイムに検出し、アバターが音声とアニメーションで運動指導しながら、反復回数を自動カウントして表示するARシステムです。
病気でなかなか外出できない方や、運動のモチベーションが上がらない方にとって、自宅でゲーム感覚で楽しく運動できるのは大きなメリットです。アバターが励ましてくれたり、進捗が見える化されたりすることで、運動を継続しやすくなるでしょう。
運動応答性物質が拓く次世代フィットネス
グラント事例1:運動が脳を守るメカニズムの解明
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タイトル: 運動誘発性物質エクサカインが血液脳関門に及ぼす影響-運動が脳を守る機序を探る-
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概要: 運動により骨格筋から分泌されるエクサカイン(イリシンなど)が、パーキンソン病やうつ病などの原因となる血液脳関門(BBB)の破綻を防ぎ、脳を守る仕組みを解明する研究です。
この研究が進めば、「なぜ運動が体に良いのか」という科学的根拠がさらに明確になります。特に、脳疾患を持つ方やそのリスクがある方にとって、運動が治療や予防の一環として、より効果的に活用される日が来るかもしれません。
高齢者や心臓疾患患者への応用
グラント事例2:高齢者の有酸素運動能力と機能的反応の最適化
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タイトル: Optimizing Aerobic Fitness and Functional Response to Exercise in Older Adults.(高齢者の有酸素運動能力と運動に対する機能的反応の最適化)
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概要: 高齢者の骨格筋サイズ・収縮力回復の課題に対し、高強度有酸素インターバル+高強度レジスタンストレーニングの有効性を検証。最大酸素摂取量・身体機能改善効果と筋細胞レベルのメカニズムを解明し、心臓疾患患者への高強度運動の臨床普及を目指す研究です。
この研究は、高齢者や心臓疾患を持つ方々が、より安全で効果的な運動方法を見つける手助けとなります。これまで運動が難しいとされてきた方々でも、適切な指導のもとで運動に取り組めるようになるかもしれません。病気のために運動を諦めていた方にとって、希望の光となるでしょう。
フィットネス技術の未来は、あなたの健康を支える
フィットネス関連技術の特許出願は一時期伸び悩んだものの、研究投資は継続的に増加しています。特にアメリカがこの分野の研究を牽引し、日本も一定水準の投資を維持している状況です。これは、既存の技術が成熟しつつある一方で、次世代に向けた基礎研究や開発投資が着実に進んでいることを示しています。
特許とグラントのキーワード分析からは、ウェアラブルを含むスマートデバイスやAI・デジタル活用技術の成長が予想されます。さらに、「BFRT(血流制限トレーニング)」、「muscle-sensing(筋肉センシング)」、「sarcopenia(サルコペニア)」といった用語の割合が急増しており、多様な運動形式のモニタリングや特定疾患への介入研究への関心が高まっています。グラントでは「myokine(マイオカイン)」、「exerkine(エクサカイン)」といった運動時に分泌されるシグナル分子に関する研究が急増しており、運動の生化学的メカニズムの解明が中長期的な重要課題となっています。
運動と生体分子の関係解明が進むことで、サルコペニアや肥満・血管疾患など、高齢化社会の課題解決に向けた高度なトレーニング技術の開発が期待されます。また、ゲーミフィケーションを活用したモチベーション改善技術や、機能的トレーニングへの応用も注目されます。フィットネス分野は、テクノロジーと医学・生命科学の融合による新たな革新の段階に入りつつあり、病気と向き合う私たち一人ひとりの健康を力強くサポートしてくれるはずです。
関連情報
アスタミューゼ株式会社は、フィットネスに関する技術に限らず、様々な先端技術や先進領域における分析を日々行い、企業や投資家に提供しています。もし、このレポートや関連技術にご興味をお持ちでしたら、以下のリンクから詳細をご覧いただくか、お問い合わせください。
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