なぜ、この大規模な調査が行われたの?

近年、日本ではストレスが大きな社会問題になっています。厚生労働省の調査でも、多くの人が日常的にストレスを感じていることが報告されていますが、これまでのストレス研究のほとんどは、会社で働く人たちを対象にしたものが中心でした。

そのため、私たち一般の生活者全体が、実際にどれくらいのストレスを抱えているのか、そして、どうやってストレスと向き合っているのかという実態は、十分に把握されていませんでした。

そこで、日本リカバリー協会が持っている大規模な健康調査データ「ココロの体力測定」を活用し、日本全国の生活者、つまり私たちみんなのストレスの実態と、そのストレスにどう対処しているのかを明らかにしようと、この研究がスタートしたのです。

10万人の「ココロの体力測定」でわかったこと

この研究は、2023年4月から7月にかけて、全国の20歳から70歳までの男女10万人を対象に、オンラインで実施されました。性別や年齢、世帯年収、職業といった基本的な情報の他に、厚生労働省のストレスチェック制度で使われている「職業性ストレス簡易調査票(29項目)」を使って、皆さんのストレス状態が評価されました。

さらに、日頃行っているストレス対処・回復行動(157項目)や、睡眠時間、労働時間、通勤時間などの生活習慣についても、詳しく分析されました。調査では、ストレススコアが77点以上だった人を「高ストレス群」と定義して、統計的に分析が行われました。

衝撃の結果:高ストレス者は想定以上!

研究の結果、まず明らかになったのは、日本人の高ストレス者の割合が、予想以上に高いということでした。

  • 男性の14.8%

  • 女性の17.7%

が「高ストレス」と判定されたのです。これは、これまでの職場で働く人を対象とした調査で想定されていた約10%を大きく上回る結果でした。病気と闘う中で、あなたが感じるストレスも、決してあなた一人だけのものではない、ということです。

若い世代ほどストレスが高い傾向

特に注目すべきは、20代や30代の若い世代で、高ストレス者の割合が特に高かったことです。この年代は、仕事やプライベートで新しい環境に飛び込んだり、キャリアを形成したりする大切な時期。その中で、心理的な負担が非常に大きいことが示唆されました。病気の発症が若い世代であれば、さらに大きなストレスを抱えている可能性も考えられます。

ストレスに影響する生活環境の要因

また、生活環境とストレスの関係についても、重要な事実が明らかになりました。

  • 低所得層の方ほど、ストレスが高い傾向が見られました。

  • 長時間労働長時間通勤も、ストレスを増やす大きな要因となっています。

  • そして、睡眠時間リラックスできる時間が少ないほど、ストレスが増大していることが強く示されました。特に、睡眠不足はストレスを大きく増やすことが明らかになっています。

病気療養中の皆さんにとって、睡眠は回復の基本中の基本ですよね。この研究結果は、質の良い睡眠がいかに大切かということを改めて教えてくれます。

みんな、どうやってストレスと向き合ってる?

日頃のストレス対処行動としては、男女ともに「睡眠」と「入浴」が最も多く選択されていました。やはり、基本的な回復行動が非常に重要だということが再確認されましたね。

一方で、高ストレス群では、少し特徴的な行動も見られました。

  • 男性は「整体・マッサージ」

  • 女性は「一人になれる空間(トイレなど)」

が、一般的な対処行動と比べて特徴的に多く見られたのです。これは、通常の休息やリラックスだけでは追いつかないほどのストレスを感じている可能性を示唆しているのかもしれません。

ストレスの「本当の原因」はどこにある?

さらに詳しく分析を進めた結果、高ストレスに最も影響する要因として、以下の3点が抽出されました。

  1. 睡眠不足
  2. 長時間労働
  3. 低世帯収入

これらの要因は、個人の努力だけでは解決が難しい、生活環境や社会構造に起因するものであることが示唆されています。つまり、あなたが感じるストレスは、あなたの性格や能力の問題ではなく、社会や環境が大きく影響している可能性が高いのです。

「個人の問題じゃない」ストレスの真実

この研究結果を受けて、一般社団法人日本リカバリー協会の代表理事である片野秀樹氏は、次のようにコメントしています。

「今回の調査で明らかになったのは、日本人のストレスの本質が“個人の問題”ではなく、“生活環境の問題”であるという点を浮き彫りにしました。特に睡眠不足や長時間労働、経済的な余裕のなさは、いずれも回復の機会を奪い、慢性的な疲労とストレスを生み出します。これは換言すれば、“環境”を整えることで、ストレスは大きく軽減できる可能性があるということを示唆しています。」

この言葉は、病気でつらい日々を送る皆さんにとって、とても大きな意味を持つのではないでしょうか。自分を責めるのではなく、自分の置かれている環境に目を向けることで、ストレスを減らすヒントが見つかるかもしれません。

「休養学」で心身を最適化する

片野代表理事は続けて、「私たちが提唱する『休養学』は、単に休むのではなく、心身の状態に応じて回復を最適化するものです。今回、その必要性を科学的に裏付ける結果となりました。」と述べています。

「休養学」とは、単に体を休めるだけでなく、心と体の状態に合わせて、最も効果的な回復方法を見つけるための学問です。病気療養中であれば、ただ横になっているだけでなく、例えば「気分転換になる趣味に没頭する」「ゆっくり湯船に浸かる」「軽いストレッチをする」など、自分に合った回復方法を見つけることが大切だということですね。

この研究は、私たちがより健やかに過ごすために、社会全体で「環境」を整えること、そして、一人ひとりが自分に合った「休養」の取り方を知ることがいかに重要であるかを、科学的に示してくれたと言えるでしょう。

あなたにできること、そして社会に求められること

病気と闘う中で、睡眠不足や長時間労働、経済的な問題など、すぐに解決できないストレス要因に直面している方もいるかもしれません。しかし、この研究結果は、「あなたは一人じゃない」「あなたのせいじゃない」ということを教えてくれています。

まずは、自分を責めることをやめて、できる範囲で心身を休ませることを最優先に考えてみてください。例えば、

  • 質の良い睡眠を意識する(寝る前のスマホを控える、寝室の環境を整えるなど)

  • 短時間でもリラックスできる時間を作る(入浴、好きな音楽を聴く、瞑想など)

  • 医療機関や相談窓口に頼ることをためらわない

といった小さなことでも、あなたの心と体を守る一歩になります。

そして、社会全体としては、企業や自治体が連携し、誰もが適切に休養できる環境を整えることが求められています。この研究が、そんな社会の実現に向けた大きな一歩となることを期待しましょう。

論文情報

本研究の詳細は、以下の学術誌に掲載されています。

  • 論文タイトル:Nationwide Online Stress Survey of 100,000 People in Japan

  • 掲載誌:Tokai Journal of Experimental and Clinical Medicine

  • 巻号・ページ:Vol.51, No.1, pp.13–22

  • 掲載年:2026年

  • 著者:松木勇樹(東海大学医学部)、春木崇(日本リカバリー協会)、水野敬(神戸大学他)、渡辺恭良(神戸大学他)、片野秀樹(日本リカバリー協会)、松木秀明(東海大学他)

  • 論文掲載場所:http://mj-med-u-tokai.com/pdf/510104.pdf

一般社団法人日本リカバリー協会について

心身の活動能力の減退した機能を回復し、休養をもって生理的・心理的資本である活力を蓄えて次に備えることを「リカバリー」と定義し、その重要性を啓発する活動を行っています。

最後に

病気と闘う皆さんが、この研究結果から少しでも心が軽くなり、「自分は悪くないんだ」「もっと休んでいいんだ」と感じていただけたら幸いです。

ストレスは、私たちの心と体が発する大切なサイン。そのサインに耳を傾け、自分に合った方法で回復を促すことが、病気と向き合う上でもきっと役立つはずです。一人で抱え込まず、時には周りの助けを借りながら、心身ともに健やかな日々を送れるよう、応援しています。